なぜプラスチックは腐らない?自然界で分解されにくい理由とマイクロプラスチックの仕組み

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食べ物や落ち葉を屋外に置いておくと、時間とともに形が崩れ、やがて分解されていきます。

ところが、ペットボトルやポリ袋などのプラスチックはそう簡単にはなくなりません。

では、なぜ自然界には落ち葉や木材を分解する微生物がたくさんいるのに、プラスチックは長く残るのでしょうか。

理由は単純に、

「プラスチックを食べる微生物がいないから」

ではありません。

プラスチックの分子構造、分子の大きさ、水とのなじみにくさ、結晶構造、温度や紫外線など、いくつもの条件が重なって生物による分解を難しくしています。

また、プラスチックは自然環境でまったく変化しないわけでもありません。紫外線や熱、波などによって劣化し、細かく砕けてマイクロプラスチックになることがあります。環境中での劣化速度は、プラスチックの種類や形状、光、温度、水分などによって大きく変わるため、「○年で必ず分解する」と一律には言えません。

この記事では、「腐る」「劣化する」「生分解される」の違いから、プラスチックが自然界に残りやすい理由を生物学と化学の視点から解説します。

結論|プラスチックは「微生物がいない」のではなく、分子を分解しにくい

最初に結論です。

多くの一般的なプラスチックが自然界で分解されにくい最大の理由は、

微生物の酵素が利用しやすい形まで、プラスチックの高分子を切断することが難しいから

です。

例えばポリエチレン(PE)は、炭素原子が長くつながった非常に安定した高分子です。

微生物は食べ物や落ち葉などを分解するとき、酵素を使って大きな分子を小さくし、それを細胞内へ取り込んで利用します。

しかし、多くのプラスチックではこの最初の「分子を小さくする段階」が進みにくいため、生分解も非常に遅くなります。プラスチックの環境中での分解には光酸化、化学的酸化、生物分解など複数の過程が関わり、その進み方はポリマーによって大きく異なります。

「腐る」「劣化する」「生分解する」は同じではない

まず整理しておきたいのが、この3つの違いです。

腐る

日常的な「腐る」は、主に食品などの有機物が微生物の働きによって変化し、においや味、見た目などが変わる現象を指します。

食品の腐敗について詳しく知りたい方は、関連記事の「腐る・発酵・分解の科学」でも解説しています。

劣化する

プラスチックの場合は、紫外線、酸素、熱、摩擦などによって、

分子が酸化したり、分子鎖が切れたり、表面がもろくなったりする

ことがあります。

つまりプラスチックは「何も変化しない」のではありません。

生分解する

生分解とは、生物の働きによって物質の化学構造が変化していくことです。

さらに分解が進み、ポリマー由来の炭素が二酸化炭素や水、バイオマスなどへ変換される過程は「無機化(mineralization)」として区別されます。

小さく砕けただけでは、完全に生分解されたとはいえません。 プラスチックの生分解を評価するときには、単なる重量減少や表面変化だけでなく、ポリマー由来炭素の行方を確認する必要があります。

なぜプラスチックは自然界で分解されにくいのか?

① 分子が非常に大きい

プラスチックは「ポリマー」と呼ばれる高分子でできています。

ポリマーとは、小さな分子が大量につながってできた長い分子です。

例えばポリエチレンでは、炭素を中心とした長い鎖が形成されています。

微生物はこの巨大な分子をそのまま細胞内へ取り込めません。

まず酵素などによって小さな分子へ切断する必要があります。

しかし、一般的なプラスチックではこの反応が進みにくいことが、自然界で長く残る大きな理由です。

② 分子をつなぐ結合が切れにくい

すべてのプラスチックが同じ化学構造を持っているわけではありません。

ポリエチレンやポリプロピレンなどは、主鎖が主に炭素―炭素結合でできています。

一方、PETにはエステル結合が含まれています。

このような化学構造の違いによって、酵素や水などによる分解のされやすさも変わります。

したがって、

「プラスチック」という1種類の物質があるわけではなく、素材ごとに分解されやすさが違う

と考える必要があります。

③ 水となじみにくく、酵素が反応しにくいものが多い

ポリエチレンなど多くの汎用プラスチックは疎水性が高く、水となじみにくい性質を持っています。

水中で働く微生物酵素がポリマー表面へ効率よく作用するうえで、この性質は障害の一つになります。

ただし、ここで重要なのは、

疎水性だから微生物が付着できないわけではない

ということです。

実際には海や川、土壌中のプラスチック表面にも多数の微生物が付着し、バイオフィルムを形成します。

したがって問題は「微生物がプラスチックに触れられないこと」ではなく、付着した微生物がポリマーそのものを効率よく分解・利用できるかどうかです。プラスチック表面に形成される独特の微生物群集は「プラスティスフィア」と呼ばれています。

④ 結晶構造も酵素の働きを妨げる

プラスチックの中には、分子鎖が比較的規則正しく並んだ「結晶領域」を持つものがあります。

このように分子が密に並んでいる部分では、酵素や水が分子鎖へ接近しにくくなります。

そのため、同じ種類のプラスチックでも、

分子量、結晶化度、表面積、製造方法

などによって分解のされやすさが変わります。

「PETを分解する微生物が見つかったから、すべてのPETが同じ速度で消える」というわけではありません。

⑤ 自然環境では「分解に適した条件」がそろわない

微生物による分解速度は、

温度、水分、酸素、光、栄養、微生物群集などの影響を受けます。

そのため、同じプラスチックでも、

海面付近、深海、土壌、堆肥施設

では劣化速度がまったく異なります。

例えば深海では、長期間残ったプラスチックが比較的安定して存在することも報告されています。

このため「プラスチックは○年で分解される」という数字を見るときには、どの素材を、どの環境で測定した数字なのかを確認する必要があります。

紫外線でボロボロになれば「分解された」の?

ここは特に誤解されやすいところです。

屋外のプラスチックは、太陽光に含まれる紫外線や酸素によって劣化します。

このとき実際に、

  • 酸化
  • 分子鎖の切断
  • 分子量の低下
  • 表面のひび割れ

などの化学的・物理的変化が起こります。

したがって、以前のこの記事にあった

「細かくなっても分子は壊れていない」

という説明は正確ではありません。

分子レベルの劣化と、物理的な破砕は同時に起こり得ます。

ただし、分子鎖が少し切れたからといって、プラスチックが二酸化炭素や水などまで完全に変換されたわけではありません。劣化したプラスチックがさらに細かく砕けることで、環境中に微小なプラスチック粒子が残ることがあります。

マイクロプラスチックはどうやってできる?

大きなプラスチック製品が、

紫外線、温度変化、波、砂との摩擦などによって劣化すると、次第にもろくなります。

そこへ物理的な力が加わることで、小さな破片へ分かれていきます。

こうして大きなプラスチックから生じる微小粒子が、環境中のマイクロプラスチックの一つの由来です。

重要なのは、

「見えなくなること」と「なくなること」は違う

という点です。

大きな袋や容器として見えなくなっても、小さな粒子として環境中に残っている可能性があります。

プラスチックにも微生物は住んでいる|プラスティスフィア

海や土壌に存在するプラスチックの表面には、細菌や藻類、真菌などが付着します。

このプラスチック表面の微生物群集は、

プラスティスフィア(plastisphere)

と呼ばれています。

研究では、周囲の水や土壌とは異なる微生物群集がプラスチック表面に形成される場合があることが分かっています。

一部の研究では、特定の環境中のプラスティスフィアで潜在的な病原菌や抗菌薬耐性遺伝子が多く検出された例もあります。

ただし、

「プラスチック表面は必ず病原菌の温床になる」

と一般化するのは適切ではありません。

微生物群集は環境、プラスチックの種類、経過時間などによって大きく変わります。

ここは「新しい微生物の生息場所が生まれている」と考える方が正確です。

プラスチックを分解できる微生物は本当にいない?

実は、います。

有名なのが2016年に報告された細菌 Ideonella sakaiensis です。

この細菌はPETを分解・利用する能力を持ち、PETaseやMHETaseと呼ばれる酵素がその過程に関わります。

この発見は、

「人工的に作られたプラスチックは、生物には絶対に分解できない」

という考えが正しくないことを示しました。

その後もPETを分解する酵素の探索や改良が進められています。2025年には天然のPET分解酵素を大規模に探索した研究も報告されています。

しかし、ここから

「プラスチックを食べる菌を海にまけば解決する」

とはなりません。

分解できるポリマーの種類や温度、結晶化度、反応速度などに制約があり、自然環境中に存在する大量のプラスチック問題と、酵素を用いた処理技術は別に考える必要があります。

「生分解性プラスチックなら自然に捨てても大丈夫」は間違い

「生分解性」や「コンポスト可能」と表示されたプラスチックも注意が必要です。

生分解できるかどうかは、

素材だけでなく環境条件によって決まります。

例えばASTM D6400-23は、自治体・産業規模の好気性コンポスト施設で処理されるプラスチックを対象とした規格で、温度管理された条件を想定しています。

つまり、

「産業用コンポストで分解できる」
=「海や森に捨ててもすぐ消える」

ではありません。

UNEPも、工業的コンポスト条件を前提とした「生分解性」の表示を、海洋環境などで同じように解釈できないことを指摘しています。

「生分解性」という言葉だけで判断せず、どの条件で分解する製品なのかを見る必要があります。

マイクロプラスチックは有害物質を吸着する?

マイクロプラスチックの表面には、一部の農薬や有機化合物、金属などが吸着することがあります。

ただし、

「マイクロプラスチックが毒物を大量に集め、そのまま食物連鎖を通して濃縮する」

と単純に説明するのは避けた方がよいでしょう。

吸着の強さは、

プラスチックの種類、粒径、表面の劣化状態、周囲の水質、対象となる化学物質

などによって大きく変わります。

実験でも、ポリエチレンやポリスチレンへの農薬類の吸着量や、その後の生物利用可能性が条件によって変化することが示されています。

したがって、

「吸着することがある」ことと、「それが生物への主要な汚染経路になる」ことは分けて考える

必要があります。

添加剤もプラスチックの環境挙動に関わる

プラスチック製品には、用途に応じて酸化防止剤、紫外線安定剤、可塑剤、着色剤などが加えられることがあります。

ただし、

「添加剤はすべてプラスチックを自然界で分解させないためのもの」

ではありません。

添加剤にはさまざまな目的があり、種類によって環境中での劣化や溶出への影響も異なります。

したがって添加剤は、プラスチックが残る「7つの理由」の一つとして単純化するより、製品ごとの環境挙動を変える要因と考える方が適切です。

私たちにできること

プラスチック問題を「分解できる菌が発見されれば解決する」と考えるのは現実的ではありません。

まず重要なのは、不要な使い捨てプラスチックを減らし、使えるものは繰り返し利用し、使用後は地域のルールに沿って適切に回収・分別することです。

生分解性やコンポスト可能と表示された製品についても、「自然に捨ててよい」という意味ではありません。

作る → 使う → 捨てる

という一方向だけで考えるのではなく、

必要な量を減らし、再使用し、適切に回収して次の資源利用につなげる

ことが基本になります。

よくある誤解

プラスチックは何百年たってもまったく変化しない?

いいえ。

紫外線や酸素、熱、摩擦などによって物理的・化学的な劣化は起こります。

ただし、完全に生分解・無機化されるまでの時間は素材や環境によって大きく異なり、非常に不確実です。

細かくなれば自然に戻ったということ?

違います。

小さな粒子に砕けても、ポリマー由来の物質が環境中に残っていれば「消えた」わけではありません。

微生物が付着しないから分解されない?

違います。

プラスチック表面にも微生物は大量に付着できます。

問題は、付着した微生物がそのポリマーを栄養源として効率よく分解できるかです。

生分解性プラスチックなら海でも分解する?

必ずしもそうではありません。

製品によって想定された分解条件が異なります。産業用コンポストを前提にした製品が、海水や土壌中でも同じ速度で分解するとは限りません。

まとめ|プラスチックは「腐らない」のではなく、完全な分解が非常に進みにくい

「プラスチックは腐らない」とよく言われます。

より正確には、

多くの一般的なプラスチックは自然環境で劣化はするものの、微生物による完全な分解が非常に進みにくい

ということです。

その理由には、

  • 高分子であること
  • 化学結合が切れにくいこと
  • 水や酵素が作用しにくいこと
  • 結晶構造
  • 温度や光などの環境条件

などが関係しています。

一方で、紫外線や酸化によって分子構造そのものが変化することもあり、その過程で材料がもろくなると、マイクロプラスチックへと細かくなる可能性があります。

さらに、プラスチック表面には微生物が暮らし、PETのように一部のプラスチックを分解できる微生物や酵素も見つかっています。

つまりプラスチック問題は、

「生物がまったく分解できない物質」なのではなく、「人間が大量に作る速度に対して、自然界での分解が非常に遅い物質」

と考えると理解しやすいでしょう。

私たちが目にするプラスチックがなくなったように見えても、その物質までなくなったとは限りません。

「細かくなる」と「自然へ戻る」は別の現象です。

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海洋プラスチックがなぜ残り続けるかわかりましたか?現在でも問題視されているところではあるので、小さいころから環境問題に触れることは重要ですね。

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参考文献

Chamas, A. et al. (2020). Degradation Rates of Plastics in the Environment. ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 8, 3494–3511.

Yoshida, S. et al. (2016). A bacterium that degrades and assimilates poly(ethylene terephthalate). Science, 351, 1196–1199. DOI: 10.1126/science.aad6359.

Zettler, E. R., Mincer, T. J. & Amaral-Zettler, L. A. (2013). Life in the “Plastisphere”: Microbial Communities on Plastic Marine Debris. Environmental Science & Technology, 47, 7137–7146.

Seeley, M. E. et al. (2020). Microplastics affect sedimentary microbial communities and nitrogen cycling. Nature Communications, 11, 2372.

Zhu, D. et al. (2022). Soil plastispheres as hotspots of antibiotic resistance genes and potential pathogens. The ISME Journal.

ASTM International. ASTM D6400-23: Standard Specification for Labeling of Plastics Designed to be Aerobically Composted in Municipal or Industrial Facilities


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