はじめ
プラスチックは私たちの生活を便利にする一方で、環境中に流出すると「なかなか腐らない」「分解されにくい」という厄介な特性を持っています。食品や木材のように腐敗して自然に戻らないため、海や土壌で長期間残り続けます。
「なぜプラスチックは腐らないのか?」という疑問に対し、本記事では科学的な視点から7つの理由を整理しました。また、マイクロプラスチック問題や添加剤の影響といったマイナーだけれど重要な点も取り上げ、最後に私たちができる実用的な対策を紹介します。
プラスチックが腐らない7つの理由

1. 高分子構造で分解が困難
プラスチックはポリマーと呼ばれる長い分子の鎖でできています。この構造は安定しており、一般的な微生物の酵素では簡単に分解できません。食品や木材のような「低分子の有機物」とは性質が大きく異なるため、腐敗菌が活動してもほとんど効果がないのです。
2. 水をはじく疎水性
多くのプラスチックは水をはじく性質を持っています。腐敗に必要な水分や酵素反応が進みにくいため、微生物が分解に関与するのが難しくなります。
3. 内部に浸透しにくい結晶化構造
ポリエチレンやナイロンのように結晶性が高いプラスチックは、分子が密に並んでいるため外部からの水や酵素の侵入を妨げます。表面は紫外線などで劣化しても、内部はほぼ無傷のまま残るのです。
4. 添加剤が分解を妨げる
プラスチック製品には紫外線吸収剤や酸化防止剤などが含まれています。これらは製品を長持ちさせる目的で入れられていますが、その副作用として環境中での分解も遅くなります。
5. 環境条件が適していない
「生分解性プラスチック」として販売されているものでも、実際には高温で湿度管理された産業用コンポスト施設でなければ分解が進まないことが多いです。自然界の土壌や海水の中では条件が揃わず、ほとんど残ってしまいます。
6. 断片化しても無機物にならない
波や紫外線によってプラスチックは粉々になりますが、これは「分解」ではなく「破砕」です。分子がCO₂や水にまで変化するわけではなく、マイクロプラスチックやナノプラスチックとして残ります。
7. 微生物の分解能力が限定的
一部の細菌がPETを分解できる酵素を持つことは発見されていますが、自然界に広く存在するわけではなく、分解速度も遅いのが現状です。大量のプラスチックを短期間で処理できるほどの能力はありません。
腐敗と生分解の違い

「腐る」と「分解する」は似ているようで異なります。
- 腐敗:食べ物が微生物の作用で変質すること。臭いや色の変化が出ますが、完全に自然物に戻るとは限りません。
- 生分解:微生物が高分子を小さな分子にまで分解し、最終的に二酸化炭素や水などの無機物にすること。
プラスチックは腐敗菌にとって「餌にならない」ため腐りませんし、分解酵素を持つ微生物も限られるため、生分解は極めて遅いのです。
環境中で起こるプラスチックの変化

- 物理的劣化:波や風、摩擦で細かくなる。
- 光劣化:紫外線で表面が脆くなる。
- 熱や化学による劣化:高温や酸・アルカリで分子が切断されるが、自然条件では起こりにくい。
- 生物による分解:限定的な細菌や菌類が一部の種類だけ分解可能。
結果的に「小さく砕ける」ことはあっても、「自然に還る」ことはほとんどありません。
マイナーだけど重要な視点

- プラスティスフィア:海中のプラスチック片には独自の微生物群集が形成されます。これは新しい生態系を作る一方で、病原菌の温床となるリスクも指摘されています。
- マイクロプラスチックの吸着性:小さなプラスチックは農薬や有害化学物質を吸着しやすく、それが食物連鎖を通じて生物に取り込まれる可能性があります。
- 添加剤の環境影響:可塑剤や安定剤は時間が経つと溶け出し、生態系や人体への影響を及ぼす恐れがあります。
私たちにできる対策

個人ができること
- 使い捨てプラスチックをできるだけ減らす
- マイボトルや布バッグを利用する
- プラスチック製品は洗ってリサイクルに回す
社会として必要なこと
- 分別回収システムの徹底
- 化学リサイクル技術の発展
- 生分解性素材の研究と普及
- 適切な法規制と国際協力
まとめ

プラスチックが「腐らない」理由は、
- 分子構造が安定していること
- 微生物が利用できないこと
- 環境条件が整わないこと
など、複数の要因が絡み合っています。
便利さと引き換えに抱えた大きな環境問題ですが、リデュース(使用削減)、リユース(再利用)、リサイクル(資源化)を意識することで、一人ひとりが実用的に貢献できます。
プラスチックは腐らないけれど、人間の工夫次第で“循環させる”ことは可能です。
参考文献
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Zettler, E. R., et al., Life in the “Plastisphere”: Microbial Communities on Plastic Marine Debris (ACS, 2013).
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