ヤモリはなぜ壁を登れる?足裏の微細な毛と接着の仕組み

緑色のヤモリが枝にとまり、足指を広げている様子
モアイ研究所 - にほんブログ村

ヤモリが壁やガラスをすいすい登れる主な理由は、足裏にある極めて細い毛が表面に密着し、分子同士に働く弱い引力を大量に利用できるからです。吸盤で空気を抜いているわけでも、足からのりを出しているわけでもありません。しかも、指の動かし方を変えると、くっついた足を素早く離せます。

ヤモリの足裏には何がある?

壁を登る種類のヤモリの足指には、幅広い「指下板(しかばん)」という部分があります。その表面を顕微鏡で拡大すると、剛毛(seta、セタ)と呼ばれる細い毛状の構造がびっしり並んでいます。毛の先端はさらに細かく枝分かれし、「へら」のような形をした微小な先端(spatula、スパチュラ)になります。

2000年に『Nature』に掲載された研究では、トッケイヤモリの足に約50万本の毛状構造があり、1本の毛の先が多数の小さな構造に分かれることが報告されました。先端が非常に細かいため、ガラスのような平らな面にも多数の接点をつくれます。

くっつく力の正体は「ファンデルワールス力」

物質は分子からできています。分子同士がごく近づくと、弱い引力が働きます。こうした分子間の相互作用の一つがファンデルワールス力です。1か所の力は小さくても、無数の毛先が表面に密着すると、体を支えられるほどの接着力につながります。

2002年の『PNAS』の実験では、ヤモリの足指や1本の毛の接着力を、表面の水のなじみやすさが異なる材料で測定しました。結果は、少なくとも研究で使われた材料では、水による毛細管力だけでは説明できず、ファンデルワールス力が主要な仕組みであることを支持しました。

ただし、実際の接着力は湿度、表面の材質、汚れ、凹凸などの条件でも変わります。「どんな場所でも必ずくっつく」という意味ではありません。

なぜ天井から落ちず、歩くときはすぐ離せるの?

ヤモリの足は、単に押しつければ最大限にくっつく仕組みではありません。足指を置いた後に毛の向きに沿って力を加えることで、接着が強くなります。逆に、指を反らしたり毛と表面の角度を変えたりすると、接着が弱まり、足を離せます。

2000年の研究と2006年の『Journal of Experimental Biology』の研究では、毛の角度や足指にかかる力の向きが接着と剥離を左右することが示されました。つまりヤモリは、足の形だけでなく足の動かし方も利用しているのです。

吸盤や粘着テープとはどう違う?

吸盤は内部の圧力差を利用してくっつきます。粘着テープは表面の粘着性のある材料で接着します。一方、ヤモリの毛状構造は、接着剤を分泌しなくても、細かな接点を多数つくって接着します。この仕組みは「乾式接着」と呼ばれ、貼ってはがせる素材やロボットの足を考えるヒントにもなっています。

すべてのヤモリがガラスを登れる?

いいえ。ヤモリの仲間には、よく発達した接着用の指下板を持たない種類もいます。たとえばヒョウモントカゲモドキは、一般的な家の壁を登るヤモリのような接着用の足裏を持ちません。「ヤモリなら必ずガラスに張りつく」と考えるのは正確ではありません。

また、ヤモリは爬虫類です。水辺で暮らす両生類のイモリとは、分類も体のつくりも異なります。詳しくはイモリとヤモリの違いをご覧ください。

生き物の表面に隠された工夫

ヤモリの足は「微細な構造でくっつく」例ですが、ハスの葉が水をはじく仕組みでは、葉の表面の細かな凹凸などが水滴のふるまいを変えます。同じように小さな表面構造でも、働きは大きく異なります。

まとめ

ヤモリが壁を登れるのは、足裏の細い毛の先端が表面に近づき、分子間の引力を多数の接点で利用できるためです。毛の角度や力の向きを調整することで、強くくっつくことと素早く離れることを両立しています。身近な生き物の足裏には、物理学と進化の面白さが詰まっています。

参考文献

  1. Autumn K, et al. (2000). Adhesive force of a single gecko foot-hair. Nature 405:681–685. doi:10.1038/35015073
  2. Autumn K, et al. (2002). Evidence for van der Waals adhesion in gecko setae. PNAS 99:12252–12256. doi:10.1073/pnas.192252799
  3. Autumn K, et al. (2006). Frictional adhesion: a new angle on gecko attachment. Journal of Experimental Biology 209:3569–3579. doi:10.1242/jeb.02486

アイキャッチ写真:Leon Pauleikhoff / Unsplash

コメント

Optimized with PageSpeed Ninja
タイトルとURLをコピーしました