渋柿を一口食べると、
「口の中がキュッと縮む」
「舌や頬がザラザラする」
ような強烈な感覚があります。
ところが同じ柿でも、甘柿なら硬い状態でも普通に食べられます。
さらに不思議なのが、渋柿を「渋抜き」すると、あれほど強かった渋みがほとんど感じられなくなることです。
では、
渋柿の中から渋い成分がなくなったのでしょうか?
実は、必ずしもそうではありません。
渋柿の渋みには水に溶ける状態のタンニンが深く関係しており、渋抜きではタンニンを「消す」というより、口の中で渋みを起こしにくい状態へ変えることが重要です。柿の脱渋研究では、可溶性タンニンの不溶化が渋みの消失と深く関係することが示されています。
今回は、
なぜ渋柿は渋いのか?
そして、
なぜアルコールや二酸化炭素、乾燥によって渋みが消えるのか?
を、タンニンの性質から解説します。
結論|渋柿の「渋い」は可溶性タンニンによって起こる
渋柿の果肉には、プロアントシアニジンを中心とする縮合型タンニンが蓄積されています。
特に渋みと関係するのが、果肉中に存在する可溶性(水に溶ける)タンニンです。柿ではタンニンが果肉中の特殊なタンニン細胞に蓄積され、可溶性タンニンが多く残っている果実ほど強い渋みを感じやすくなります。
ここでポイントになるのが、
「タンニンがあるかどうか」だけではない
ことです。
タンニンが水に溶ける状態なのか、溶けにくい状態なのかによって、口に入れたときの渋みが大きく変わります。
そもそも「渋み」は味ではない?
渋柿を食べたときの感覚は、砂糖の甘味や塩の塩味とは少し性質が違います。
タンニンは、唾液中のタンパク質などと相互作用する性質を持っています。
口の中では唾液が粘膜表面を滑らかにしていますが、タンニンと唾液タンパク質が相互作用すると潤滑性が変化し、
乾く、縮む、ざらつく
ような独特の感覚につながります。タンニンとタンパク質の相互作用は、食品の渋味知覚を考えるうえで中心的な仕組みです。
つまり渋柿を食べたとき、
「ものすごく苦い!」
と感じることがありますが、
厳密には苦味と渋みは別の感覚です。
渋柿特有の「口全体がキュッとする感じ」が、タンニンによる渋みです。
柿のタンニンはどこに入っている?
柿の果肉には、タンニン細胞と呼ばれる特殊な細胞があります。
この細胞の液胞にはタンニンが蓄積されます。
柿の品種によってタンニン細胞の成長パターンが異なり、それが甘柿と渋柿の性質の違いにも関係しています。甘柿の代表的なPCNA型では、果実の発達途中でタンニン細胞の成長が早く止まることが知られています。
その結果、果実自体が大きくなるにつれてタンニン濃度が相対的に下がり、成熟した段階では渋みを感じにくくなります。
一方、渋柿では成熟しても可溶性タンニンが多く残る品種があります。
甘柿と渋柿は何が違う?
普段は、
甘柿
と
渋柿
の2種類として扱うことが多いですが、柿の渋みは実際にはもう少し複雑です。
柿は、受粉や種子の有無によって渋みの抜け方が変わるものまで含めて複数タイプに分類されています。研究では代表的にPCNA、PVNA、PVA、PCAの4タイプが使われます。
ただ、日常生活で重要なのは、
硬いままでも渋くない品種がある一方、収穫時には可溶性タンニンが残っていて、そのままでは強く渋い品種もある
ということです。
つまり、
甘柿にはタンニンがまったくない
渋柿だけにタンニンがある
という単純な違いではありません。
「渋抜き」するとタンニンが消えるの?
ここが最も面白いところです。
渋抜きでは、タンニンそのものを果実の外へ取り除いているとは限りません。
代表的な脱渋では、
水に溶けて口の中のタンパク質と反応できるタンニンを、溶けにくい状態へ変える
ことが重要です。
研究では、柿の果実中で作られたアセトアルデヒドが可溶性タンニンと反応し、タンニンを不溶化する仕組みが示されています。
つまりイメージとしては、
渋いタンニンが消える
というより、
タンニンが口の中で反応しにくい形へ変わる
と考える方が近いのです。
二酸化炭素で渋が抜けるのはなぜ?
柿の商業的な脱渋方法の一つに、高濃度の二酸化炭素を利用する方法があります。
果実を高CO₂環境に置くと、通常の呼吸とは異なる代謝状態になり、果実内部でエタノールやアセトアルデヒドの生成が増えます。
そこで生じたアセトアルデヒドが可溶性タンニンの不溶化に関与します。
高CO₂処理に伴ってアセトアルデヒドが増加し、可溶性タンニンが減少することは複数の柿の脱渋研究で確認されています。
したがって、
二酸化炭素そのものがタンニンを洗い流すわけではありません。
果実自身の代謝を変化させることで、タンニンの状態を変えているのです。
アルコールでも渋が抜けるのは同じ仕組み?
渋柿の脱渋には、エタノールを利用する方法も知られています。
こちらも根本的にはアセトアルデヒドとの関係が重要です。
果実内でエタノールから生じたアセトアルデヒドが可溶性タンニンと反応し、不溶化に関与することが化学的に示されています。
つまり、
アルコールが渋みを別の味で隠している
わけではありません。
果実内部で起こる化学反応によって、口の中で渋みを生じさせるタンニンの状態が変化しています。
なぜ干し柿にすると渋くなくなる?
渋柿から作る代表的な食品が干し柿です。
「乾燥させただけなのに、どうして渋みがなくなるの?」
と思うかもしれません。
自然乾燥を調べた研究では、乾燥の進行に伴って可溶性タンニン量が大きく低下し、もともと渋かった柿でも非渋柿に近いレベルまで渋みが低下しました。
ただし、乾燥による脱渋は「水がなくなったから渋みが感じられなくなる」というだけではありません。
乾燥中には果肉組織やタンニンの状態にもさまざまな変化が起きています。
その結果、口の中で反応できる可溶性タンニンが減り、干し柿として食べられるようになります。
熟して柔らかくなれば渋みが消えることもある
渋柿でも、果実が十分に熟して柔らかくなると渋みが弱くなることがあります。
この場合も単純にタンニンが消失するとは限りません。
柿の軟化過程では、細胞壁に由来するペクチンと可溶性タンニンが複合体を形成し、渋みを低下させる可能性も報告されています。
つまり柿の脱渋には、
アセトアルデヒドによる不溶化だけでは説明できない経路
もあります。
「渋が抜ける」という身近な現象の裏側では、果実の成熟、細胞壁、呼吸代謝、ポリフェノール化学が同時に関係しているわけです。
種の周りだけ茶色くて甘い柿があるのはなぜ?
柿を切ったとき、
種の周囲だけ果肉が茶色くなっている
ものを見たことがあるかもしれません。
柿の中には、受粉して種子ができることで渋みの抜け方が変化するタイプがあります。
研究では、種子から生じる揮発性物質に関連したアセトアルデヒドなどによって周囲のタンニンが不溶化し、果肉の渋みが弱くなる仕組みが知られています。
そのため、
同じ品種でも種の有無によって食べたときの渋みが変わる
場合があります。
柿の「甘柿・渋柿」の世界が意外と複雑なのは、このためです。
渋が抜けてもタンニンは残っている
ここまでの内容から分かる重要なポイントがあります。
それは、
「渋くない=タンニンがゼロ」ではない
ということです。
渋抜きでは、可溶性タンニンが重合・不溶化したり、他の成分と複合体を作ったりすることで、口の中で渋みを起こしにくくなります。
つまり、
「存在する量」と「口で感じられる状態」は別
なのです。
これは柿だけでなく、タンニンという物質を理解するときにも重要な考え方です。
タンニンそのものについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
柿の「渋い」を化学反応として見ると面白い
渋柿は、
「甘くない柿」
なのではありません。
果実に糖が含まれていても、可溶性タンニンが多ければ強い渋みを感じます。
そして渋抜きをすると、
糖を新しく大量に加えなくても、
タンニンが口の中で渋みを生じにくくなることで、本来ある甘さを感じやすくなります。
渋柿が渋抜き後に「甘くなった」と感じる背景には、このような感覚の変化もあります。
まとめ|渋抜きは「タンニンを消す」のではなく状態を変える
渋柿の強烈な渋みには、可溶性タンニンが深く関係しています。
可溶性タンニンが口の中のタンパク質と相互作用すると、唾液による潤滑性が変わり、
キュッとする、乾く、ざらつく
ような渋みを感じます。
そして渋抜きでは、
タンニンそのものを果実から取り除くのではなく、口の中で反応しにくい不溶性の状態へ変える
ことが重要です。
二酸化炭素やアルコールによる処理では、果実内で増えたアセトアルデヒドがタンニンの不溶化に関与します。干し柿でも、乾燥に伴って可溶性タンニンが大きく減少します。
つまり、
渋柿 → 渋抜き → 甘く食べられる柿
という身近な変化の裏には、
植物細胞・呼吸代謝・タンニンの化学反応
が関係しているのです。
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参考文献
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