夜、家の屋根を何かが歩いている。
公園の池には「ミドリガメ」が何匹もいる。
秋になると河川敷が黄色い植物で埋め尽くされる。
私たちの身近な場所には、人間の活動によって本来の分布域とは異なる地域へ持ち込まれた外来種が暮らしています。
ただし、最初に知っておきたいことがあります。
「外来種=見つけたら自分で捕まえて駆除すればいい」ではありません。
外来種の中には、外来生物法によって飼育・保管・運搬・放出などが規制される特定外来生物もいます。
さらにアカミミガメのように、特定外来生物でありながら一部の規制が適用除外となっている条件付特定外来生物もあります。
この記事では、住宅地・庭・池・河川敷などで比較的目にする機会がある5種を例に、
- どう見分けるのか
- 何が問題になるのか
- 法律上どのように扱われているのか
- 家庭では何ができるのか
を整理します。
まず知っておきたい|「外来種」と「特定外来生物」は同じではない
外来種という言葉と、特定外来生物という言葉は同じではありません。
環境省は、生態系などに被害を及ぼす、または及ぼすおそれのある外来種について、規制・防除・理解促進などを進めています。その中でも、外来生物法に基づいて指定されたものが特定外来生物です。
今回紹介する5種を整理すると、次のようになります。
| 種 | 主に見られる場所 | 主な法律上の扱い |
|---|---|---|
| アライグマ | 住宅地・農地・水辺 | 特定外来生物 |
| アカミミガメ | 池・川・用水路 | 条件付特定外来生物 |
| ウシガエル | 池・沼・湿地 | 特定外来生物 |
| セイタカアワダチソウ | 河川敷・空き地・道路脇 | 特定外来生物ではない |
| ハクビシン | 住宅地・農地・森林周辺 | 特定外来生物ではない |
特に注意したいのは、
「外来種だから別の場所へ移してあげよう」
という行動です。
種類によっては生きたまま運ぶこと自体が規制されているため、自己判断で移動させないことが重要です。
① アライグマ|黒いマスクと縞模様の尾が特徴
アライグマ(Procyon lotor)は北米原産の哺乳類です。
目の周囲に黒いマスクのような模様があり、尾には濃淡の縞模様があります。
夜行性で、農地だけでなく住宅地にも現れ、屋根裏など建物内部を利用することがあります。
アライグマは現在、外来生物法の特定外来生物です。
アライグマは何が問題になる?
アライグマは雑食性で、果実や農作物などさまざまなものを利用します。
問題は農業被害だけではありません。
日本の在来生物を捕食したり、生息場所を利用したりすることによって、生態系にも影響を及ぼします。
また住宅へ侵入すれば、屋根裏をねぐらにするなど生活上の被害にもつながります。
家の周りでできる対策
家庭では、まずアライグマに餌とねぐらを与えないことが重要です。
- 生ごみを外へ放置しない
- ペットフードを屋外へ置いたままにしない
- 庭の果実を放置しない
- 軒下や通気口などの破損を確認する
といった対策が基本です。
ただし、すでに屋根裏へ侵入している可能性がある場合には、いきなり侵入口を完全に塞ぐのではなく、自治体や専門業者へ相談する方が安全です。
特定外来生物なので、捕獲した個体を自己判断で別の場所へ運んだり放したりしないでください。
② アカミミガメ|昔「ミドリガメ」と呼ばれていたカメ
アカミミガメ(Trachemys scripta)は、池・川・用水路などで見かけることがある外来カメです。
日本で特によく見られるミシシッピアカミミガメは、幼体がかつて「ミドリガメ」として大量に流通していました。
典型的な個体では頭の後ろに赤い模様がありますが、成長した雄では黒化して赤い部分が分かりにくくなることもあります。環境省によると、国内のアカミミガメの多くはこのミシシッピアカミミガメです。
なぜ問題になる?
アカミミガメは雑食性で、水生植物、甲殻類、水生昆虫、魚類などを利用します。
日本各地へ定着し、日光浴場所や食物をめぐる在来カメ類との競争や、水生生物群集への影響が問題になっています。
2023年から「条件付特定外来生物」
アカミミガメは、2023年6月1日からアメリカザリガニとともに条件付特定外来生物に指定されました。
これは重要な制度です。
一般家庭で飼っているアカミミガメは、許可や届出なしでそのまま飼育できます。
一方で、
池や川などの野外へ放したり、逃がしたりすることは禁止されています。
販売・頒布・購入などにも規制があります。
つまり、
池で捕まえた
↓
家へ持ち帰った
↓
飼えなくなった
↓
元の池へ戻した
という行動はできません。
環境省も、自分で飼う意思がない場合は、野生個体を安易に拾ったり移動させたりしないよう案内しています。
③ ウシガエル|牛のような低い声で鳴く大型のカエル
池や沼から、
「ヴォー、ヴォー」
という低い鳴き声が聞こえてくることがあります。
その正体がウシガエルかもしれません。
大型のカエルで、非常に大きなオタマジャクシが見つかることもあります。
環境省の特定外来生物一覧では、ウシガエルは Rana catesbeiana として掲載され、日本に定着している特定外来生物です。
何が問題になる?
ウシガエルは肉食性が強く、
昆虫、甲殻類、魚類、他の両生類などさまざまな動物を捕食します。
そのため、侵入した水域の在来生物への影響が問題になります。
オタマジャクシを持ち帰ってもいい?
おすすめできません。
ウシガエルは特定外来生物なので、
- オタマジャクシを捕まえて飼う
- 生きたウシガエルを別の池へ運ぶ
- 捕獲した個体を別の場所へ放す
といった行為を自己判断で行わないでください。
特定外来生物を扱う場合には外来生物法の規制が関係します。
見つけたからといって「とりあえず持ち帰る」のではなく、その場から移動させる前に自治体や地方環境事務所へ確認する方が安全です。
④ セイタカアワダチソウ|秋に黄色い花を咲かせる外来植物
秋になると、河川敷・道路脇・空き地などを黄色く染める大型の植物。
それがセイタカアワダチソウ(Solidago altissima)です。
元記事では Solidago canadensis としていましたが、日本で一般にセイタカアワダチソウとして扱われる植物は Solidago altissima です。
環境省の資料でもこの学名が使われています。
北アメリカ原産の多年草で、地下茎を伸ばして大きな群落を形成します。
環境省は在来種との競合やアレロパシー、景観への影響などを挙げています。
特定外来生物なの?
特定外来生物ではありません。
ここはアライグマやウシガエルとは大きく違います。
つまり、
「外来植物」と「特定外来生物」は同じ意味ではありません。
自宅の庭に生えてきたら?
自分が管理する敷地内で増やしたくない場合は、種子をつける前に除去することが拡散防止につながります。
ただしセイタカアワダチソウは多年草で、長い地下茎を持っています。
地上部だけを一度刈れば完全になくなる、という植物ではありません。
その後も再生してこないか確認しましょう。
また、道路・公園・河川敷など、自分が管理していない土地の植物を勝手に抜くのは避け、その場所の管理者のルールに従います。
⑤ ハクビシン|顔の中央を通る白い線が特徴
夜の住宅地で見かけることがあるのがハクビシン(Paguma larvata)です。
体は細長く、鼻から額へ伸びる白い筋が特徴です。
国立環境研究所の侵入生物データベースでは、日本列島のほぼ全域に移入分布し、市街地から山間部まで利用する動物として整理されています。果実を好み、人家の屋根裏へ侵入することもあります。
ハクビシンは外来種なの?
ハクビシンの日本個体群の由来については歴史的に議論があります。
国立環境研究所の侵入生物データベースでは移入種として扱われていますが、侵入元は不明とされ、江戸時代に持ち込まれた記録や、戦時中に毛皮用として持ち込まれた記録などが示されています。
そのため、この記事では「比較的身近な外来・移入生物」の例として扱います。
なお、外来生物法の特定外来生物ではありません。
家に入れないことが重要
ハクビシン対策では、
- 生ごみを放置しない
- ペットフードを外へ置かない
- 果実を早めに収穫する
- 屋根や軒下の隙間を確認する
- 屋根へ届く枝を管理する
など、餌と侵入経路を減らす方法が基本です。
自治体も、生ごみやペットフードを屋外へ置かないこと、果実を早めに収穫することなどを対策として案内しています。
勝手に箱わなで捕まえていい?
ここにも注意が必要です。
ハクビシンは特定外来生物ではありませんが、野生鳥獣なので鳥獣保護管理法が関係します。
自治体によっては、許可なく捕獲することはできないと明示しています。
家屋被害がある場合は、市販のわなをいきなり設置するのではなく、まず自治体へ相談しましょう。
アライグマ・ハクビシン・タヌキはどう見分ける?
夜に見ると、これら3種は意外と間違えやすい動物です。
アライグマ
→ 目の周囲が黒く、尾に明瞭な縞模様があります。
ハクビシン
→ 鼻から額へ白い縦線が入り、体と尾が細長く見えます。
タヌキ
→ 目の周囲は黒っぽいものの、アライグマのような長い縞模様の尾ではありません。
夜間に無理に近づいて確認する必要はありません。
安全な距離から写真を撮影できれば、自治体へ相談するときの情報になります。
番外編|ヒアリは状況が少し違う
外来種問題で名前を聞くことが多いのがヒアリ(Solenopsis invicta)です。
しかし、今回紹介した5種とは状況が違います。
ヒアリ類は要緊急対処特定外来生物として扱われ、日本では侵入・定着を防ぐための監視や対策が続けられています。
つまり、
日本の住宅地で普通に定着しているアリ
として扱うものではありません。
疑わしいアリを見つけた場合には、素手で触ったり巣を刺激したりせず、環境省の最新情報を確認してください。
外来種を見つけたらどうすればいい?
身近な外来種を見つけたとき、もっとも大切なのは、
「見つけた=すぐ自分で捕獲」ではない
ということです。
種類によって法律上の扱いが違うためです。
基本的には、
- 安全な距離から確認する
- 必要なら写真・日時・場所を記録する
- 生きた個体を安易に別の場所へ移動させない
- 飼育している生物を野外へ放さない
- 生ごみ・ペットフードなどを放置しない
- 家屋への侵入経路を減らす
- 判断に迷ったら自治体や地方環境事務所へ確認する
と考えるとよいでしょう。
環境省も、野外で見つけた外来生物に関する具体的な問い合わせ先として地方環境局などの連絡先を案内しています。
覚えておきたい「入れない・捨てない・拡げない」
外来種問題を考えるときに役立つのが、環境省が普及啓発している外来種被害予防三原則です。
入れない
→ 悪影響を及ぼすおそれのある外来種を、むやみに新しい地域へ持ち込まない。
捨てない
→ 飼育・栽培している生物を野外へ放さない。
拡げない
→ すでに野外にいる外来種を、別の場所へ移動させない。
環境省は2025年3月に「外来種被害防止行動計画 第2版」を公表し、2030年までを見据えて国・自治体だけでなく国民を含む幅広い主体による対策を進めています。
この三原則は、専門的な防除をしなくても私たちが実践できる重要な考え方です。
外来種は全部「悪者」なの?
ここも外来種問題を考えるうえで大切です。
アライグマやアカミミガメ自身が、
「日本の生態系を壊そう」
として生きているわけではありません。
人間が本来の分布域を越えて生物を運んだ結果、それまで出会うことのなかった生物同士が同じ生態系で暮らすことになりました。
そこで、
- 在来種への捕食
- 餌や生息場所をめぐる競争
- 農業被害
- 住宅被害
などが生じた場合に、対策が必要になります。
環境省も、外来種問題を一人ひとりの日常生活から発生し得る問題として位置づけています。
つまり外来種問題は、
「外来生物を悪者扱いする問題」ではなく、人間による生物の移動をどう管理するかという問題
でもあります。
まとめ|外来種を見つけたら「捕まえる」より先に確認する
今回紹介したのは、
アライグマ
アカミミガメ
ウシガエル
セイタカアワダチソウ
ハクビシン
の5種です。
しかし、法律上の扱いはすべて同じではありません。
アライグマとウシガエルは特定外来生物。
アカミミガメは条件付特定外来生物。
セイタカアワダチソウとハクビシンは、外来生物法の特定外来生物ではありません。
だからこそ、
「外来種だから、とりあえず捕まえる」
という対応は避けた方がよいのです。
まず種類を確認する。
安易に移動・放逐しない。
必要なら自治体や専門機関へ相談する。
そして普段から、
入れない・捨てない・拡げない
を意識する。
これが、私たちが身近なところからできる外来種対策です。
関連記事
参考資料
環境省「日本の外来種対策/外来生物法」
環境省「特定外来生物等一覧」
環境省「条件付特定外来生物 アカミミガメ・アメリカザリガニの規制について」
環境省(2025)「外来種被害防止行動計画 第2版」
環境省「奄美群島で見られる外来種」
国立環境研究所「侵入生物データベース:ハクビシン」
農林水産省「野生鳥獣被害防止マニュアル」




