はじめ
セントラルドグマは、生命の設計図であるDNAの情報がどのようにしてRNAを経てタンパク質に変換されるかを説明する基本概念です。
簡単に言えば「DNA → RNA → タンパク質」と覚えられますが、実際には複雑な調節や例外も存在します。
この記事では、初心者でも理解でき、研究や日常の科学リテラシーにも役立つ内容を、6つのテーマに分けて解説します。
① セントラルドグマとは?

基本の流れ
- DNA(遺伝情報) → RNA(メッセンジャー) → タンパク質(機能分子)
誤解しやすいポイント
- タンパク質が直接DNAを書き換えることは通常ない
- 現代生物学では例外(逆転写やRNA編集)があるが、基本概念としては有効
ポイント
- 遺伝情報の流れを理解することは、基礎生物学・分子生物学の第一歩
- 後の転写・翻訳・応用技術の理解につながる
② 転写:DNAからRNAへ

転写の流れ
- DNAの特定部位(プロモーター)に転写因子が結合
- RNAポリメラーゼがDNAを読み取り、RNAを合成
- 前駆体mRNA(プレ-mRNA)が生成される
真核生物でのRNA成熟
- 5’キャップ:RNAを安定化させ、翻訳を助ける
- スプライシング:不要なイントロンを除去し、必要なエクソンを結合
- ポリアデニル化(poly-A尾):RNAの安定性を高める
ポイント
- 遺伝子1つから複数のタンパク質が生まれることもある(選択的スプライシング)
- 転写制御がタンパク質の量を左右する
③ 翻訳:RNAからタンパク質へ

翻訳の流れ
- 開始:開始コドン(AUG)にリボソームが結合
- 伸長:tRNAがコドンを読み取り、アミノ酸を結合
- 終結:終止コドンでポリペプチドが完成
重要ポイント
- 読み枠がずれると全く別のタンパク質になる(フレームシフト)
- 翻訳後修飾でタンパク質の機能や安定性が調整される(リン酸化、グリコシル化など)
④ 例外・拡張:知っておきたいマイナーな現象

逆転写
- RNAを鋳型にDNAを作る現象
- レトロウイルスやテロメラーゼで見られる
RNA編集・化学修飾
- mRNAの塩基を化学的に書き換えることがある
- 安定性や翻訳効率に影響
非翻訳RNA(ncRNA)
- miRNAやlncRNAはタンパク質に変換されず、遺伝子発現を制御
プリオンや特殊翻訳
- タンパク質の形で情報が伝わる例(プリオン)
- フレームシフトやセレンシステイン挿入など、例外的ルールも存在
⑤ 実験・応用例

研究や医療での活用
- RT-PCR / RNA-seq:遺伝子発現やスプライシングの解析
- リボソームプロファイリング:翻訳の状態を解析
- mRNAワクチン:mRNAを体内で翻訳させ、免疫を獲得
- RNAi / アンチセンスオリゴ:特定mRNAを抑制して病気を治療
ポイント
- RNAの取り扱いは注意が必要(RNase対策)
- 例外現象を調べる場合はlong-read RNA-seqなど先端技術を活用
⑥ まとめ:理解のチェックリスト
- DNA→RNA→タンパク質の流れを説明できる
- 転写・翻訳で重要な酵素・因子を理解している
- mRNAの成熟過程(スプライシングなど)を理解している
- 逆転写・RNA編集・ncRNAなどの例外を知っている
- 主な解析技術(RT-PCR、RNA-seq)と利点・限界を把握
- 臨床応用(mRNAワクチン、RNAi)と関係性を理解
まとめ
セントラルドグマは一見単純ですが、実際には多くの調節や例外が存在します。転写・翻訳の基本を押さえつつ、例外的現象や応用技術を知ることで、分子生物学の理解がぐっと深まります。