チョウは足で味を感じる?葉をたたいて卵を産む場所を選ぶ仕組み

緑の植物にとまる黄色と黒のチョウ。チョウは脚の先で葉の成分を調べる
モアイ研究所 - にほんブログ村

チョウは、種類によっては脚の先で葉の成分を「味」として感じ取り、卵を産む場所を選びます。人間のように舌で確かめるのではなく、脚の先にある小さな感覚器を葉に触れさせるのです。とくにナミアゲハなどでは、メスが前脚で葉を繰り返したたく行動と、産卵を促す植物成分の検出が詳しく研究されています。

では、なぜ葉を味わう必要があるのでしょうか。そこには、卵からかえった幼虫が食べられる植物を見つけるという大切な理由があります。

チョウの足にある「味覚センサー」とは

チョウの脚の先端に近い部分は「ふ節(ふせつ)」と呼ばれます。ここには、植物に触れたときに化学物質を検出する接触化学感覚子という微小な感覚器が存在します。難しい名前ですが、簡単にいえば「触れたものの成分を調べるセンサー」です。

感覚子の内部には、糖や植物特有の物質などに反応する神経細胞があります。細胞が刺激されると電気的な信号が生じ、その情報が神経系へ伝わります。研究者はこの信号を記録し、どの成分に反応するかを調べています。

すべてのチョウが同じセンサーを同じように使うわけではありません。種類や性別、感覚子の形によって、役割に違いがあります。

メスが葉を前脚でたたくのはなぜ?

ナミアゲハのメスは、産卵候補の葉にとまると、前脚で葉の表面を細かくたたくことがあります。この行動は英語でdrumming(ドラミング)と呼ばれます。

ナミアゲハの幼虫は主にミカン科の植物を食べます。メスが適切な植物を見分けられなければ、幼虫は孵化しても十分な餌を得られないかもしれません。そのため、植物の匂いや見た目に加えて、葉に触れて得られる化学情報が産卵場所の最終的な判断に役立ちます。

2011年に発表された研究では、ナミアゲハの前脚にある、産卵刺激物質シネフリンの認識に関わる味覚受容体が報告されました。つまり「足で味わう」という表現には、行動だけでなく分子レベルの根拠もあります。

葉の成分は一つだけで判断するの?

答えはいいえです。ナミアゲハでは、複数の植物成分の組み合わせが重要であることが示されています。

2013年の神経科学研究では、前脚の感覚子にある神経細胞が、シネフリンやスタキドリンなど複数の産卵刺激物質に反応することが調べられました。実際の葉に近い濃度の成分を混ぜると、葉の抽出液に近い産卵反応が引き起こされました。

この結果は、単純に「ある物質があれば卵を産む」のではなく、いくつかの化学的な手がかりを組み合わせて植物を判断することを示しています。ただし、実際の野外では匂い、視覚、葉の状態なども影響します。

オスも足で味を感じる?

前脚の味覚器はメスだけのものではありません。ただし、産卵する必要があるメスでは、産卵に関わる感覚子が特に発達する例が知られています。

2022年のジャコウアゲハの研究では、成虫の前脚に長さの異なる感覚子があり、長いタイプは寄主植物の成分の識別、短いタイプは糖や塩類の検出に関わる可能性が示されました。幼虫はまた別に、口の周辺の感覚器を使って食べる植物を判断します。

つまり、成虫の脚は単なる歩行器官ではなく、植物を選ぶための情報収集にも使われています。

触覚や口の役割とはどう違う?

  • 触角:主に空気中の匂いなどを検出し、離れた場所から植物や相手を探すのに役立ちます。
  • 前脚の先:葉などに直接触れ、植物に含まれる化学成分を調べます。
  • 口吻(こうふん):花の蜜などの液体を吸うための器官です。摂食に関係する味覚もあります。

チョウは一つの感覚だけで生きているのではありません。さまざまなセンサーを組み合わせることで、餌や産卵場所を探しています。昆虫が植物を見つける別の仕組みについては、ミツバチが花を見つけるときの電気的な手がかりも参考になります。

身近なチョウを観察するときのポイント

庭や公園でチョウが葉にとまったら、すぐに飛び立つか、同じ葉の上で前脚を細かく動かすかを観察してみましょう。葉をたたくような動きが見えたら、産卵場所を調べている可能性があります。

ただし、葉にとまっただけで産卵行動と断定することはできません。植物の種類、チョウの種類、実際に卵を産んだかどうかを一緒に記録すると、観察の価値が高まります。生き物観察ノートの書き方もあわせて活用してください。

まとめ:チョウの足は植物を調べる感覚器でもある

チョウが足で味を感じるというのは、単なる比喩ではありません。少なくとも研究されたアゲハチョウ類では、前脚の感覚子が葉の成分を検出し、産卵場所の選択に役立つことが実験で示されています。卵からかえる幼虫にとって食べられる植物を選ぶため、メスは脚まで使って周囲の環境を調べているのです。

参考文献

  1. Ozaki K. et al. (2011). A gustatory receptor involved in host plant recognition for oviposition of a swallowtail butterfly. Nature Communications 2, 542. https://doi.org/10.1038/ncomms1548
  2. Ryuda M. et al. (2013). Gustatory Sensing Mechanism Coding for Multiple Oviposition Stimulants in the Swallowtail Butterfly, Papilio xuthus. Journal of Neuroscience 33, 914–924. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1405-12.2013
  3. Ohsugi T., Nishida R., Fukami H. (1991). Multi-Component System of Oviposition Stimulants for a Rutaceae-Feeding Swallowtail Butterfly. Applied Entomology and Zoology 26, 29–40. https://doi.org/10.1303/aez.26.29
  4. Electrophysiological and Morphological Characterization of Contact Chemosensilla in Adults and Larvae of the Butterfly, Atrophaneura alcinous (2022). 原著論文(全文)

アイキャッチ写真:Aleksey Rusov / Unsplash。写真はイメージであり、本文のナミアゲハの実験個体ではありません。

Optimized with PageSpeed Ninja
タイトルとURLをコピーしました