植物ホルモン6選|オーキシン・ジベレリン・エチレンの役割と驚きの相互作用をやさしく解説


はじめに

植物は動物のように歩いたり声を出したりはできません。しかし、体の中でごくわずかな化学物質(植物ホルモン)を使って情報をやり取りし、成長や花・実をつけるタイミングを調整しています。

この記事では、特に有名な オーキシン・ジベレリン・エチレン を中心に、植物ホルモンの働きと、それぞれがどう関わり合って植物を動かしているのかを紹介します。さらに、農業や園芸での応用例や、ちょっとマイナーだけれど重要なホルモンについてもわかりやすく解説します。


1. 植物ホルモンとは?

  • 動物の「ホルモン」と同じく、少量で大きな効果をもたらす化学物質
  • 植物ホルモンは「成長・分化・老化・ストレス応答」などに関わる
  • 働き方の特徴:
    1. 合成(どこで作られるか)
    2. 輸送(どこに運ばれるか)
    3. 受容(どんなセンサーで感じ取るか)
    4. 分解(どのくらいの時間で消えるか)

この4つのバランスによって、植物の体の中で「いつ・どこで」作用するかが決まります。


2. オーキシン(Auxin):根や茎の方向を決めるホルモン

オーキシンは植物ホルモンの中でも最も有名な存在です。

主な働き

  • 根や茎の方向性を決める(光に向かって伸びる「屈光性」、重力に応じた「屈地性」)
  • 頂芽が強く伸び、脇芽の成長を抑える(頂端優勢)
  • 発根を促す(挿し木の際の発根剤として利用)

ポイント

オーキシンは細胞から細胞へと**一方向に流れる性質(極性輸送)**を持っています。この流れが「成長方向」を決める地図のような役割を果たしています。


3. ジベレリン(Gibberellin):伸びる力を与えるホルモン

ジベレリンは「植物をぐんぐん伸ばす」力を持つホルモンです。

主な働き

  • 種子が発芽するスイッチ
  • 茎を伸ばす(イネや麦の丈を決める大事な因子)
  • 花を咲かせるタイミングをコントロール

農業での利用

  • 「矮化剤(わいかざい)」と呼ばれるジベレリン抑制剤を使って、稲や麦の丈を短くし、倒れにくくする技術が**「緑の革命」**を支えました。
  • ブドウ栽培では、ジベレリン処理で「種なしブドウ」を作ることができます。

4. エチレン(Ethylene):果実の成熟を進めるホルモン

エチレンは珍しい気体のホルモンです。空気中を拡散し、周囲の植物にも作用します。

主な働き

  • 果実の成熟(バナナやトマトを赤くする)
  • 葉の老化・黄化
  • ストレスへの応答(例えば、倒れた植物が太く短く成長するのはエチレンの働き)

身近な例

  • リンゴを一緒に袋に入れるとバナナが早く黄色くなるのは、リンゴがエチレンを放出するからです。
  • 貯蔵の現場では「1-MCP」という物質でエチレンの働きを止め、果物の鮮度を保っています。

5. そのほかの重要な植物ホルモン

オーキシン・ジベレリン・エチレン以外にも大事なホルモンがあります。

  • サイトカイニン:細胞分裂を促進し、老化を抑える(切り花を長持ちさせる作用)。
  • アブシジン酸(ABA):乾燥や塩ストレスに強くなるホルモン。気孔を閉じて水分を守る。
  • ブラシノステロイド(BR):細胞を大きく伸ばす、病気に強くする。
  • ジャスモン酸(JA)・サリチル酸(SA):昆虫や病原体から身を守る。
  • ストリゴラクトン(SL):枝分かれを抑え、根の微生物との共生を助ける。

これらは少しマイナーに感じますが、実は農業や環境ストレスに対する研究では欠かせない存在です。


6. ホルモンの相互作用(クロストーク):協力と競合のネットワーク

植物ホルモンは単独で働くのではなく、お互いに助け合ったり、逆に抑え合ったりしながら全体のバランスを取っています

具体例

  • オーキシンとサイトカイニン:組織培養で、このバランスを変えることで「根を作る」「芽を作る」がコントロール可能。
  • オーキシンとエチレン:オーキシンが高濃度になるとエチレンが作られ、果実の落下や成熟が進む。
  • ジベレリンとDELLAタンパク質:ジベレリンは「伸びよ!」と命令しますが、DELLAがブレーキ役。これがJAやBRとも連携して「成長と防御のバランス」を取ります。
  • ABAとJA/SA:乾燥時にはABAが優先されて成長を止める一方、病気が来ればJAやSAが優先されるなど、「状況によって優先度が変わる仕組み」があります。

まとめ

  • 植物ホルモンは、オーキシン・ジベレリン・エチレンを中心に、他のホルモンと複雑にネットワークを組んで成長を調整しています。
  • 身近な例としては、発根剤、種なしブドウ、バナナの熟成、切り花を長持ちさせる薬などに応用されています。
  • 農業や園芸に限らず、研究や教育の場でも「ホルモン間のバランス」を意識することで、植物の不思議な仕組みがもっとよく見えてきます。

参考リンク(文章中には入れていません)

  1. Annual Review of Plant Biology – Plant Hormone Transport and Localization
  2. Genome Biology – The PIN-FORMED protein family
  3. Development – Gibberellin signaling in plants
  4. Binder, Ethylene signaling in plants (PMC)
  5. Plant hormone analysis advances (Annual Review, 2017)

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