はじめに:私たちの息を支える“青い地球のフィルター”
地球の表面の7割を占める「海」は、ただの広い水の塊ではありません。
私たちが吐き出した二酸化炭素(CO₂)や、車・工場から排出される温室効果ガスを静かに吸収してくれる巨大なフィルターのような存在です。
実は、人間活動で排出されたCO₂の約3分の1を海が吸収しています。
このおかげで、地球は今よりもはるかに暑くなっていたはずの気温上昇を抑えられています。
でも、「海がCO₂を吸収する」と言われても、あまりピンとこないですよね?
そこで今回は、実際の海の中で何が起きているのか、そしてそれが私たちの生活とどう関係しているのかを、5つのポイントでわかりやすく解説します。
① 溶ける炭酸水のように:海水がCO₂を“飲み込む”仕組み

あなたが炭酸水を開けたとき、プシュッと音がして気体が逃げますよね。
これは、水に溶けていたCO₂が外に出た瞬間です。
海でも同じことが起きています。
- 海面の水温が低いと、CO₂はよく溶けます。
- 水温が高くなると、CO₂は逃げていきます。
つまり、冷たい海(例えば北極や南極の近く)はCO₂を吸収し、暖かい海(熱帯地方)はCO₂を放出するという関係です。
このようにして、地球全体では「冷たい海がCO₂を取り込み、温かい海が放出する」というバランスの循環が生まれています。
しかし、温暖化で海水温が上昇すると、このバランスが崩れ、CO₂吸収力が下がってしまうのです。
② プランクトンの光合成:海の中の“緑の森”

陸上の森と同じように、海の中にも“見えない森”が広がっています。
それが「植物プランクトン」です。
彼らは光合成によって、
- CO₂を吸収し、
- 酸素を放出し、
- 有機物を作り出します。
驚くことに、地球の酸素の約半分はこのプランクトンが作っているのです。
🌱 つまり、あなたが今吸っている空気の半分は「海がくれたもの」。
そして、死んだプランクトンやその排泄物が海の底へ沈むことで、CO₂が「深海に運ばれて貯蔵」されるのです。
この仕組みは「生物ポンプ」と呼ばれ、海の炭素循環の要となっています。
③ 海のベルトコンベア:海洋大循環の秘密

あなたがコーヒーをかき混ぜると、温度が全体に均一になりますね。
海も同じで、地球規模での「かき混ぜ」=海洋大循環があります。
北大西洋で冷たい海水が沈み込み、ゆっくりと深海を流れて南極やインド洋、太平洋へと巡ります。
この「海のベルトコンベア」は数千年単位でCO₂を深海に運び、長期的に貯蔵する仕組みを作っています。
しかし最近の研究では、この循環が弱まりつつあるという報告も。
温暖化で海水の密度差が小さくなり、沈み込みが起きにくくなっているのです。
もし循環が止まれば、CO₂の貯蔵能力が大幅に減り、気候バランスが崩れる可能性もあります。
④ サンゴ・貝殻・堆積物:海が“炭素を閉じ込める”形

サンゴ礁や貝殻、プランクトンの殻には「炭酸カルシウム」が使われています。
これは、CO₂が海水中で化学変化してできた炭素の形です。
これらが死んで海底に沈むと、
- 炭素が「石灰質」として固定され、
- 数百万年以上も安定して存在できます。
まるで「海が自らの体の中に金庫を作って、炭素を閉じ込めている」ような仕組みです。
この長期的な炭素固定は、**“地球の記憶装置”**とも呼ばれます。
実際、石灰岩や白亜紀の地層には、かつて海洋生物が吸収した炭素が閉じ込められています。
⑤ 進化する海洋技術:未来のCO₂吸収戦略

近年、科学者たちは「海そのものを使ったCO₂吸収技術」を研究しています。
たとえば——
- 🌿 海藻農場:巨大な海藻を育て、CO₂を固定して深海に沈める。
- 🧪 アルカリ度強化:海水に天然鉱物を加えて、CO₂の吸収効率を高める。
- 🌀 人工アップウェリング:深海の栄養を表層に持ち上げ、プランクトンの増殖を促す。
これらはすべて「ブルーカーボン技術」と呼ばれる新しい試みです。
ただし、海洋生態系への影響やコスト、国際的な合意など課題も多く、まだ実験段階にあります。
それでも、陸上だけでなく**“海も地球温暖化の最前線にいる”**という認識が広まりつつあります。
終わりに:海を守ることが、未来の空気を守ること
海は、私たちが知らないうちにCO₂を吸収し、地球の呼吸を整えてくれています。
しかし、温暖化による水温上昇や酸性化によって、その力が弱まりつつあります。
あなたが日常でできることもあります。
- 使い捨てプラスチックを減らす
- 再生可能エネルギーを選ぶ
- 海洋保護活動を支援する
こうした小さな選択が、海のCO₂吸収能力を守ることにつながるのです。
海を“青い炭素の森”として大切にすることが、これからの地球の未来を変えていく第一歩です。
参考文献・資料
- 気象庁「地球温暖化と海洋の関係」
- JAMSTEC(海洋研究開発機構)「ブルーカーボンの研究」
- IPCC 第6次報告書「海洋の炭素循環」
- Nature Climate Change, Science Advances など最新論文