はじめに
なぜ地球上の生物は、熱帯に集中しているのでしょうか？
アマゾンの熱帯雨林には、たった1ヘクタールに数百種の樹木が共存し、昆虫は数百万種にのぼるといわれます。
一方で、寒冷地や砂漠では限られた種しか生きられません。
本記事では 「熱帯に生物が多い理由6選」 を、生物学的な視点からわかりやすく解説します。最新研究やマイナーな知見も含めて紹介するので、読み終わる頃には熱帯の奥深い仕組みが理解できるはずです。
理由1：安定した気候が進化の時間を与えた
熱帯は一年を通して気温や日照が安定しています。
そのため、動植物は「活動を止めずに」世代を重ねることができます。
進化は時間の積み重ねによって進みます。氷河期にも熱帯は比較的安定した「避難所」となり、多くの種が生き延びました。その結果、熱帯は長期的に多様性を蓄積できたのです。
👉 ポイント：熱帯の安定した環境は「進化の舞台装置」になった。
理由2：太陽と水がもたらす圧倒的な生産力
強い太陽光と豊富な雨。これこそ熱帯の最大の特徴です。
光合成が盛んに行われ、植物のバイオマスが豊富に蓄積されます。
この「エネルギーの豊かさ」が、昆虫・鳥・哺乳類などの多様な生活を支えています。
特に果実を利用する動物が多く、それがさらに種間関係を複雑にして多様性を押し広げました。
👉 ポイント：豊かなエネルギーが、多層的で細分化された生態系を作り出す。
理由3：共進化が生み出す種の爆発
熱帯では「種と種の関係」が非常に濃密です。
- 花と送粉昆虫
- 捕食者と被食者
- 寄生者と宿主
こうした関係は「共進化」を引き起こします。例えば、特定の花が特定のハチにしか受粉できないように、専門性の高い関係が多く見られます。
さらにユニークなのが「アリとアカシアの共生」。アリは木に住み、木を守る代わりに餌を得る。このような密接な関係は熱帯ならではです。
👉 ポイント：共進化は「進化の軍拡競争」を生み、多様性を加速させる。
理由4：地史的背景 ― 熱帯は進化のゆりかご
化石記録をたどると、熱帯は古代から「進化のゆりかご」でした。
- 被子植物（花を咲かせる植物）の多くは熱帯起源
- 哺乳類の多くの系統も熱帯で分化
- そこから温帯・寒帯へと広がった
さらに「熱帯ニッチ保守仮説（Tropical Niche Conservatism）」という考え方もあります。生物は最初に獲得した「温暖湿潤な環境への適応」を保持し続けやすい。そのため、今も多くの系統が熱帯に集中しているのです。
👉 ポイント：熱帯は「生物の発祥地」としての役割を果たしてきた。
理由5：微生物と土壌が隠れた主役
意外なことに、熱帯の土壌は栄養が乏しいといわれます。
それでも多様性を支えているのは「分解者」の力です。
- 白色腐朽菌：リグニンを分解し、養分循環を助ける
- 菌根菌：植物の根と共生し、栄養吸収を支える
- 土壌細菌：1gあたり数千種類以上が存在
この微生物ネットワークが植物の成長を支え、結果的に動物の多様性へとつながっています。
👉 ポイント：目に見えない微生物が「熱帯の多様性の土台」を作っている。
理由6：共存の謎と未解明のパラドックス
ここまでの理由を合わせても、まだ「熱帯多様性パラドックス」は完全には解けていません。
なぜ限られた面積で、これほど多くの種が共存できるのか？
ニッチ分割や動的平衡理論では説明しきれない部分が残っています。
これこそが熱帯の魅力であり、研究者が挑み続けるテーマです。
👉 ポイント：熱帯の生物多様性は、まだ解き明かされていない謎を秘めている。
