脂肪は本当に悪者?体に必要な脂肪の本当の役割とは

サイエンス

はじめに:「脂肪=太る」は本当か?

ダイエットや健康志向が高まる現代では、「脂肪を摂らない」ことが美徳のように扱われています。しかし、これは大きな誤解です。

脂肪は、炭水化物・タンパク質と並ぶ三大栄養素のひとつであり、体の正常な機能を保つうえでなくてはならない存在です。適切な脂肪は、むし「太りにくい体」を作るために必要なのです。

脂肪の基本機能:私たちの命を支える5つの役割

脂肪は単なるエネルギー源ではありません。以下のような重要な役割を担っています。

1. エネルギーの貯蔵庫

脂肪1gあたりのエネルギーは9kcal。これは炭水化物やタンパク質の約2倍以上です。体が飢餓状態に陥ったとき、脂肪が生存を支える最後のエネルギー源となります。

2. 脂溶性ビタミンの吸収を助ける

ビタミンA、D、E、Kは「脂に溶けるビタミン」であり、脂肪がなければ体内に吸収されません。ビタミンDの吸収が不足すれば骨粗鬆症、ビタミンEが不足すれば免疫力低下など、多くの不調を招きます。

3. ホルモンの材料になる

性ホルモン(エストロゲン・テストステロン)や副腎皮質ホルモン(コルチゾールなど)は、脂肪から作られるコレステロールを原料にしています。極端な脂質制限ダイエットで月経が止まるのも、脂肪不足が原因のひとつです。

4. 神経系の保護と絶縁体

脳の重量の約60%は脂肪で構成されています。神経細胞はミエリン鞘という脂質で覆われており、これが絶縁体となって電気信号の伝達をスムーズにします。

5. 体温調節・内臓保護

皮下脂肪は断熱材として体温を保ち、内臓脂肪はクッションの役割を果たして衝撃から守ります。

摂るべき脂肪・避けるべき脂肪:健康を左右する「質の違い」

脂肪にはいくつもの種類があります。全てが悪者ではなく、「どの脂肪を選ぶか」が最も重要です。

良質な脂肪(積極的に摂るべき脂肪)

  • オメガ3脂肪酸(α-リノレン酸、DHA、EPA)
    → 青魚、亜麻仁油、えごま油に含まれ、抗炎症作用・脳機能の維持に貢献。心臓疾患リスクを下げるという研究多数。
  • オメガ9脂肪酸(オレイン酸)
    → オリーブオイルやアボカドに多く含まれ、悪玉コレステロール(LDL)を減らすとされる。

摂取を控えるべき脂肪

  • 飽和脂肪酸
    → 肉の脂、バター、ラードに含まれ、摂りすぎると動脈硬化・心疾患のリスク増加
  • トランス脂肪酸
    → マーガリン、スナック菓子、加工パンなどに含まれる人工脂肪。自然界にはほとんど存在せず、心臓病や糖尿病との関連が強く指摘されています。WHOはトランス脂肪酸の完全排除を推奨しています。

脂肪のマイナーな話:知るともっと面白い脂肪の世界

1. 「脂肪を燃やす脂肪」がある!?:褐色脂肪細胞の秘密

脂肪細胞には、エネルギーを蓄積する「白色脂肪」と、熱を生み出して体温を保つ「褐色脂肪」があります。特に褐色脂肪は代謝を高める鍵として注目されています。

  • 褐色脂肪は赤ちゃんに多く、肩甲骨の間や首の周囲に存在。
  • 寒さにさらされることで活性化され、エネルギーを「燃やす」働き。
  • 成人でも運動・唐辛子成分(カプサイシン)で刺激可能。

2. 脂肪の味覚センサー?:脂肪専用の味覚受容体が存在

最近の研究では、人間の舌には脂肪酸を感じ取る受容体(CD36など)が存在し、「脂肪の味」を感じる能力があることがわかってきました。つまり、「脂っこい=うまい」と感じるのは、進化的な本能の一部なのです。

3. 脂肪が少なすぎると性格が変わる?

脂肪酸は脳内ホルモンの材料です。不足すると、うつ・不安・集中力低下などの精神的な不調が現れることがあります。特にDHA不足は子どもの発達障害や高齢者の認知症との関係も研究されています。

4. 脂肪の分布と寿命の関係

内臓脂肪型(りんご型肥満)よりも皮下脂肪型(洋ナシ型肥満)の方が、死亡リスクは低いという研究があります。単なる「体重」よりも脂肪の付き方が健康に直結しているというわけです。

5. 脂肪の燃焼に「水」が必要

脂肪を分解してエネルギーに変えるには、水が必要です。脂肪酸が分解される過程(β酸化)では、水分子が化学反応に関与します。そのため、ダイエット中は十分な水分補給が重要です。

脂肪と上手につきあう方法:日常でできる脂質コントロール術

  • 良質な油に置き換える
    サラダ油の代わりにオリーブオイルや亜麻仁油を使うなど、日常の調理油から見直すことが可能です。
  • 加工食品を減らす
    トランス脂肪酸を多く含む菓子パンやインスタント食品を減らし、自然な食材中心の食生活を意識しましょう。
  • 適度な運動で脂肪代謝を促進
    有酸素運動(ウォーキング・ジョギングなど)は脂肪を効率的にエネルギーに変換します。運動後30〜60分は脂肪燃焼が最も高まるとされます。
  • 間食にはナッツ類が◎
    オメガ3が豊富で腹持ちがよく、血糖値の急上昇も抑えられるため、ダイエット中の間食にも最適です。
モアイ研究所
モアイ研究所

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まとめ:脂肪の「正体」を知れば、食事がもっと楽しくなる

脂肪は「敵」ではなく、身体に不可欠なパートナーです。「何をどれだけ摂るか」「どのように生活と組み合わせるか」で、脂肪は健康を支える力にも、病気の引き金にもなります。

偏ったイメージに惑わされず、脂肪について正しく理解することで、より豊かで健康的な食生活を送ることができるでしょう。

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