カタツムリの殻の巻き方は、単なる偶然ではありません。巻く向きは発生初期の左右のつくられ方と関係し、種類によっては母親の遺伝子の働きが決めています。さらに、左巻きと右巻きの違いが交尾のしやすさや天敵からの逃げやすさにも影響することが研究でわかっています。
右巻きと左巻きはどう見分ける?
殻のとがった先端を上にして、殻の口(体が出入りする開口部)を手前に向けて見ます。口が右側なら右巻き、左側なら左巻きです。渦巻きを上から見たときの時計回り・反時計回りだけで判定しようとすると、見る向きによって混乱するため、殻の口の位置で確認するのが確実です。
巻き方の割合は種によって異なります。多くの種では一方の向きが普通ですが、すべてのカタツムリが右巻きというわけではありません。
巻く向きはいつ決まるの?
巻き方向は、成長した殻を後から曲げて決めるものではありません。卵から発生するごく初期に、細胞の配置や分裂の向きに左右差が生まれます。これが後の体の左右非対称性につながります。
2019年、阿部正憲氏と黒田玲子氏らは淡水産のヨーロッパモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を使い、Lsdia1という遺伝子をCRISPR/Cas9で働かなくすると、通常は右巻きになる系統から左巻きの子が生まれることを示しました。左右差の兆候は受精卵がまだ1細胞の段階で観察されています。
ここで重要なのが「母性効果」です。この種では、子自身の遺伝子型だけでなく、母親の遺伝子が卵に用意した分子の働きが、子の巻き方向を左右します。これは研究対象の種で確かめられた仕組みで、すべての巻き貝が同じ遺伝子で決まるという意味ではありません。
巻き方が違うと交尾しにくい?
巻き方が反対になると、体の左右や生殖器の位置も鏡像のように変わることがあります。正面から向かい合って交尾する陸産貝では、右巻きと左巻きの組み合わせで交尾が難しくなる場合があります。
ただし「巻き方が違えば絶対に交尾できない」は言い過ぎです。日本のマイマイ属(Euhadra)を調べた2017年の研究では、異なる巻き方向の個体間で交尾や遺伝子の交流が起こりうることが報告されています。巻き方の違いだけで必ず新種になるわけではありません。
左巻きだとヘビに食べられにくいことも
2010年の研究では、右巻きの陸貝を捕食するのに適した動きをするイワサキセダカヘビ(Pareas iwasakii)に対して、左巻きのサツママイマイ類が捕食を免れやすいことが実験で示されました。つまり、同じ左右の違いが、交尾では不利でも、天敵に対しては有利に働く可能性があります。
これは特定のヘビと貝の組み合わせで得られた結果です。左巻きならどんな天敵にも強い、というわけではありません。
身近なカタツムリで観察してみよう
雨上がりなどにカタツムリを見かけたら、殻の口が左右どちらにあるか観察してみましょう。種類が違えば巻き方の傾向も変わるため、できれば写真と場所を一緒に記録すると役立ちます。生き物を傷つけず、観察後は元の場所に戻してください。
生物の形が環境に合わせて進化する例は、ヤモリが壁を登れる理由でも紹介しています。また、カメレオンの体色が変わる仕組みでは、体の構造と機能の関係を解説しています。
まとめ
カタツムリの殻の巻き方は、発生初期の左右差に由来し、遺伝子の働きによって決まる場合があります。巻き方は交尾のしやすさや捕食されやすさにも関係しますが、その影響は種類や相手の生物によって違います。小さな殻の左右差から、遺伝、発生、進化という生物学の大きなテーマを読み取れるのです。
参考文献
- Abe M, Kuroda R (2019). The development of CRISPR for a mollusc establishes the formin Lsdia1 as the long-sought gene for snail dextral/sinistral coiling. Development 146:dev175976. 原著論文
- Hoso M et al. (2010). A speciation gene for left–right reversal in snails results in anti-predator adaptation. Nature Communications 1:133. 原著論文
- Richards PM et al. (2017). Single-gene speciation: Mating and gene flow between mirror-image snails. Evolution Letters. 原著論文

