サケはなぜ生まれた川に戻れる?においの記憶と地磁気でわかる帰巣の仕組み

流れの速い川を跳ねながら遡上するサケ
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サケが生まれた川へ戻れる大きな理由は、若い頃に覚えた川の「におい」を手がかりにすることです。さらに、広い海では地球の磁場(地磁気)を使って大まかな位置を知る可能性が、研究によって示されています。つまり、海では広域の目印、川の近くではにおいというように、複数の手がかりを使い分けていると考えられています。

サケが海から川へ戻って産卵する行動は「母川回帰(ぼせんかいき)」と呼ばれます。どうやって道を見つけるのか、何がわかっていて何が研究途中なのかを見ていきましょう。

サケは一度海に出たあと、なぜ川に戻るの?

サケの仲間には、川で生まれ、海で餌を食べて成長し、産卵のために川へ戻る種類がいます。これを「遡河回遊(そかかいゆう)」といいます。海は餌が豊富な一方、産卵や稚魚の成長には川の環境を利用するという生活史です。

生まれた川へ戻ることには、その川の水温や流れなどの環境に適応してきた集団が、同じ場所で次の世代を残すという意味もあります。ただし、すべての個体が必ず同じ場所に戻るわけではなく、別の川へ迷い込む「迷入」も起こります。

最もよくわかっているのは「川のにおい」を覚える仕組み

サケは鼻に相当する嗅覚器官で、水に溶けた化学物質を感じ取ります。私たちが空気中のにおいを嗅ぐのとは違い、水中の化学的な特徴を識別するのです。

NOAA(米国海洋大気庁)の研究紹介によると、若いサケは海へ下る前後の重要な時期に、育った川に特徴的なにおいを記憶します。このように、成長の特定の時期に環境の情報を学習することを「刷り込み(インプリンティング)」と呼びます。

成魚になって産卵のために戻るときは、その記憶と川の水のにおいを照らし合わせ、支流を選ぶ際の手がかりにします。単に「水のにおいがするから川に向かう」ということではなく、覚えていた水の特徴を見分ける点が重要です。

では、広い海ではどうやって川の近くまで戻るの?

海の真ん中では、故郷の川のにおいが遠くまで届くとは限りません。そこで注目されているのが、地球の磁場を利用したナビゲーションです。

地球の周りには磁場があり、その強さや傾きは場所によって異なります。磁場の情報が位置を知るための手がかりになる可能性があります。サケが海へ出る頃の磁場の特徴を覚え、戻るときに利用するという考え方を「地磁気刷り込み仮説」といいます。

2013年に発表された研究では、カナダのフレーザー川へ戻るベニザケが、バンクーバー島の北側と南側のどちらを通るかという長年の記録を調べました。通り道の磁場と河口付近の磁場の違いが、選ばれやすい経路と関連していました。2014年の別の分析でも、ベニザケやカラフトマスの回帰経路と磁場の変化との関係が報告されています。

ただし、これらは地磁気の利用を支持する証拠であって、すべてのサケが磁場だけで正確な場所を特定すると証明したものではありません。海流、水温、その他の感覚情報も移動に関わる可能性があります。

海と川で使う手がかりはどう違う?

移動する場所主な手がかり研究からわかっていること
広い海地磁気など地磁気の変化と回帰経路の関係が示されている
河口付近地磁気や水の化学的特徴など広域の移動から川の選択へ移る段階
川の中・支流水中のにおい若い頃に覚えたにおいが帰巣に重要

これは理解しやすく整理したモデルです。実際のサケは、場所や状況に応じて複数の感覚を組み合わせていると考えられ、役割分担が完全に解明されたわけではありません。

もし川のにおいが変わったら、帰れなくなる?

帰巣ににおいが重要なら、水環境の変化は無関係ではありません。NOAAは、人工ふ化したサケが適切な時期に故郷の川の水を経験できない場合、別の場所に迷い込む可能性が高くなることを研究課題として挙げています。

一方で、「少し水質が変わればサケは必ず帰れなくなる」と断定するのは正確ではありません。川のにおいは複数の化学的特徴から成り、サケの行動には流量、河川構造、経験なども影響します。河川の保全を考えるときは、単に水をきれいにするだけでなく、海と川を行き来できる連続性や、産卵場所の環境を守ることも大切です。

サケは川と海の塩分の違いにどう対応するの?

道を覚えているだけでは、海と川を行き来できません。サケは成長に合わせて、えらなどの塩分調節機能も切り替えます。こちらは別の記事魚は水を飲むの?海水魚と淡水魚で違う理由で解説しています。

また、サケが戻る川には、水の流れや底の石の間で暮らす水生昆虫もいます。河川環境のつながりに興味があれば、なぜ川虫は石の下にいる?もあわせて読んでみてください。

まとめ:サケの帰巣は「におい」と「広い海の手がかり」の組み合わせ

サケは若い頃に経験した川のにおいを覚え、成魚になって戻る際に利用します。さらに、海の中では地磁気が長距離移動の手がかりになるという有力な研究結果があります。故郷へ帰る能力は、一つの不思議なセンサーではなく、複数の感覚と成長の過程で得た記憶によって支えられているのです。

参考資料

  1. NOAA Fisheries. Fish Olfaction and Homing Research(サケの嗅覚と帰巣に関する公的研究紹介)
  2. Dittman, A. H. & Quinn, T. P. (1996). Homing in Pacific salmon: mechanisms and ecological basis. Journal of Experimental Biology, 199, 83–91. DOI
  3. Putman, N. F. et al. (2013). Evidence for geomagnetic imprinting as a homing mechanism in Pacific salmon. Current Biology, 23, 312–316. DOI
  4. Putman, N. F. et al. (2014). Geomagnetic imprinting predicts spatio-temporal variation in homing migration of pink and sockeye salmon. Journal of the Royal Society Interface. DOI
  5. Ueda, H., Putman, N. F. & Okino, T. (2021). Integrated research on olfactory and geomagnetic imprinting and homing in Pacific salmon. North Pacific Anadromous Fish Commission Technical Report, 17, 135–137. DOI

本文は主に太平洋サケ類に関する研究に基づいています。種類や個体によって移動経路と帰巣の精度は異なります。

アイキャッチ写真:Rafael Peier / Unsplash。写真は川を遡上するサケのイメージです。

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