トンボの幼虫「ヤゴ」のうち、一般にトンボ亜目に分類される仲間は、お腹の奥にある直腸鰓(ちょくちょうさい)で水中の酸素を取り込みます。 さらに、水を勢いよく排出すると、その反動で前に進めます。つまり同じ器官が呼吸と移動の両方に関わっているのです。
ヤゴはどこで呼吸するの?
私たち人間は肺に空気を取り込んで呼吸します。一方、水中生活を送るヤゴの一部は、腹部の後端から水を取り込み、直腸の内側にある「直腸鰓」という器官で、水に溶けている酸素を取り込みます。えらと聞くと魚の頭の横を想像しますが、ヤゴのえらは体の内側にあります。
腹部の筋肉が動くと、水が出入りします。この水の入れ替えを換水といい、酸素を含む新しい水を呼吸器官に届ける役割があります。
どうして水を噴射すると進むの?
ヤゴが水を後ろに強く押し出すと、反作用によって体が前方へ動きます。風船から空気が抜けると反対方向に飛んでいくのと似た原理です。これは「ジェット推進」と呼ばれます。
ただし、普段の呼吸のために水を出し入れする動きと、素早く移動するための強い噴射は同じではありません。研究では、肛門付近の弁を動かし、排出する水の向きを調節する様子も報告されています。
酸素が少ない水ではどうなる?
水中の溶存酸素が減ると、呼吸は難しくなります。2024年の研究では、ギンヤンマ類の一種を使った実験で、水中の酸素分圧が低くなると、直腸への水の出し入れの回数が増えることが示されました。研究対象の個体では、酸素が少ない条件でも酸素を取り出す効率を維持していました。ただし、すべてのヤゴが同じ反応をするとは限りません。
すべてのヤゴがお尻の中のえらで呼吸するの?
いいえ。ここは重要な違いです。イトトンボやカワトンボなどの均翅亜目の幼虫は、腹部の先にある尾鰓(びさい)などを主なガス交換の場として利用します。「ヤゴはみんな直腸鰓で呼吸する」と覚えるのは正確ではありません。
観察するときのポイント
池や川でヤゴを見つけたら、体形や腹部の先端に注目すると、仲間の違いを知る手がかりになります。生息地の水温や酸素量も、水生昆虫の暮らしに影響する環境条件です。採集が許される場所でも、観察後は元の場所に戻し、水辺の生き物を傷つけないようにしましょう。
まとめ
トンボ亜目のヤゴは、直腸内のえらで呼吸し、水を強く噴射して泳ぐこともできます。呼吸器官を移動にも利用する点が、ヤゴの面白い適応です。一方、イトトンボなどでは呼吸の仕組みが異なるため、仲間を区別して理解することが大切です。
水の中で生き物が周囲の環境を感じる仕組みに興味があれば、魚の側線という水流センサーの解説もおすすめです。また、淡水魚と海水魚の水の取り込み方では、水環境に応じた別の適応を紹介しています。
参考文献
- Lee, D. J. & Matthews, P. G. D. (2024). Oxygen extraction efficiency of the tidally-ventilated rectal gills of dragonfly nymphs. Proceedings of the Royal Society B. DOI:10.1098/rspb.2023.1699
- de Pennart, A. & Matthews, P. G. D. (2019). The bimodal gas exchange strategies of dragonfly nymphs across development. Journal of Insect Physiology. PubMed
- Mill, P. J. & Pickard, R. S. (1972). A review of the types of ventilation and their neural control in aeshnid larvae. Odonatologica. 論文情報
- Caltech Gharib Research Group. Dragonfly Nymph Tri-leaflet Valve.

