はじめに
血液と血管は、私たちの体を支える最も基本的かつ重要なシステムです。酸素や栄養の運搬、老廃物の除去、免疫応答、体温調節など、無数の役割を同時に担っています。本稿では「血液の構造」「血管の種類と機能」「循環の仕組み」「代表的な病気と予防」「研究の最前線やマイナーな話題」を、科学系の読者にも一般読者にも読みやすく整理して解説します。

モアイ研究所
血に関するまとめ記事はこちらです!
1. 血液の構成と主な役割

血液は大きく「血漿」と「血球(有形成分)」に分かれます。
- 血漿(約55%)
- 水分(約90%)にタンパク質(アルブミン、グロブリン、フィブリノゲンなど)、電解質、ホルモン、栄養素、代謝産物が溶け込んでいます。
- 役割:浸透圧の維持、物質運搬、凝固因子の供給。
- 血球(約45%)
- 赤血球(erythrocyte)――酸素の運搬(ヘモグロビン)。形状は二重凹面で、柔軟性が高い。
- 白血球(leukocyte)――免疫応答(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)。
- 血小板(platelet)――止血と血栓形成の初期段階に関与。
主な機能をまとめると:
- 酸素・二酸化炭素の輸送
- 栄養素とホルモンの分配
- 免疫・防御機能
- 出血時の止血(凝固)
- 体温・酸塩基平衡の調整
2. 血管の種類とそれぞれの働き

血管は構造と機能により大別されます。大きく「動脈系」「静脈系」「毛細血管」に分かれます。
- 動脈(artery)
- 心臓から血液を高圧で送り出す。壁が厚く弾性線維と平滑筋が豊富。
- 大動脈〜中・小動脈までで収縮・拡張(血管抵抗)を調節し、血圧を制御。
- 静脈(vein)
- 組織から心臓へ血液を戻す。壁は薄く弁があり血液の逆流を防ぐ。貯留機能が高い(血液の貯蔵庫)。
- 毛細血管(capillary)
- 動脈と静脈を結び、物質交換が行われる。内皮細胞が一層で透過性が高い。組織ごとに構造差があり、腎臓や肝臓では特殊な毛細血管(類洞)があります。
重要なポイント:
- **内皮(endothelium)**は単なる内張りではなく、血管拡張因子(NO等)や抗凝固性・炎症応答の制御など能動的な働きを持つ「血管の司令塔」です。
- 血管の弾性や内皮の健康が、長期的な循環器疾患リスクに直結します。
3. 血液循環の仕組みと調節メカニズム

心臓をポンプとして全身を巡る血液循環は、肺循環と体循環(大循環)に分かれます。
- 心拍出量(CO)=心拍数(HR)×一回拍出量(SV)
- 血圧(BP)≒心拍出量 × 全末梢抵抗(TPR)
循環調節の主要因:
- 神経系(交感・副交感神経)による瞬時の調整
- ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、アンジオテンシンII、アルドステロン)による中〜長期の調整
- 局所調節(血管内皮からのNO産生、代謝産物による血管拡張)
- 自律的な血流分配(例:運動時は筋肉へ、消化時は消化器へ)
病態生理の観点からは、血液の粘度や血管内皮の機能低下、そして血栓形成が循環障害の主要因になります。
実用的なチェックリスト(セルフケアに役立つ):
- 血圧測定を定期的に行う
- 運動習慣の確立(有酸素+筋力)
- 塩分とトランス脂肪の摂取制限
- 禁煙・適正飲酒
4. よくある血液・血管の病気とその予防法(代表5つ)

- 動脈硬化(アテローム性)
- 原因:高LDL、喫煙、高血圧、糖尿病など。
- 予防:脂質管理、運動、禁煙、血圧・血糖の管理。
- 心筋梗塞・狭心症(冠動脈疾患)
- 冠動脈のアテロームプラーク破綻と血栓が主因。
- 早期発見(狭心症の症状、心電図)とリスク因子管理が重要。
- 脳梗塞(虚血性)/ 脳出血
- 心房細動による心原性塞栓、アテローム由来、穿通枝病変など。
- 予防:抗凝固療法(適応がある場合)、血圧管理、糖代謝管理。
- 深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓
- 長時間の座位や手術後に発生リスク上昇。
- 予防:早期離床、弾性ストッキング、抗凝固プロトコル。
- 出血傾向(血友病、血小板機能異常、抗凝固薬の副作用)
- 出血既往や服薬歴の確認、外科的処置時の注意が必要。
検査で確認すべき指標(一般向け):
- 血圧、心電図、血糖、HbA1c、脂質(LDL/HDL/トリグリセリド)、CRP(炎症)、CBC(貧血・血小板)

モアイ研究所
血液に関する詳細を学びたい方はこちらをどうぞ。血液は病気の兆候や健康に関することが分かりやすいので、学んでいて損はないと思います!
リンク
リンク
5. マイナーで面白い/最先端の話題(研究トピック5選)

- グリコカリックス(glycocalyx)と内皮保護
- 血管内皮表面の糖鎖層で、血液と内皮の間のバリアを形成。糖尿病や炎症で損傷すると微小循環障害が生じる。
- マイクロバイオームと血管健康
- 腸内細菌が産生する代謝物(TMAOなど)が動脈硬化に関与するという研究。
- マイクロバルブ(微小血栓・エクソソーム)
- 細胞外小胞(エクソソーム)が血管内シグナル伝達に関与し、遠隔臓器間コミュニケーションで疾患に影響する可能性。
- フロー・メディエーテッド・ディレーション(FMD)評価の臨床応用
- 内皮機能を非侵襲的に評価する指標として注目。
- 造血幹細胞と老化
- 加齢に伴う造血幹細胞(HSC)の機能低下が免疫老化や貧血に関係。
これらのテーマは、将来的に「診断マーカー」や「治療ターゲット」になる可能性があり、臨床応用への橋渡し研究が急速に進んでいます。
6. まとめ(生活でできること・読者へのアクション)
血液と血管の健康は、日々の生活習慣で大きく左右されます。まずは以下を実行してください。
- 定期的な健康チェック(血圧・血糖・脂質)
- 週150分程度の有酸素運動+週2回の筋トレ
- バランスの良い食事(魚・野菜・全粒穀物を中心に)と適正体重の維持
- 禁煙・節酒・十分な睡眠
- 長時間座る仕事なら1時間に一度は立つ・歩く
また、次のような症状があれば早めに医療機関を受診してください:
- 胸の痛み、息切れ、片側の手足のしびれや麻痺、突然の強い頭痛、長時間続く腫れと疼痛(足)など。

モアイ研究所
参考
- 米国心臓協会(AHA)
- 国立衛生研究所(NIH) / National Library of Medicine (PubMed)
- UpToDate(臨床総説)
- WHO(World Health Organization)循環器疾患関連ページ
- レビュー論文例:endothelial glycocalyx, TMAO and cardiovascular disease(PubMedで検索してください)




