はじめに
近年、日本の都市近郊や住宅地の「家の周り」で外来種が目に付く機会が増えている。外来種は見た目が可愛い・珍しいために放されたペット由来や、観賞用・園芸目的に持ち込まれたものが多く、定着すると在来種の競合・捕食、農作物被害、衛生問題などを引き起こすケースがある。環境省や国立環境研究所は外来種の監視・防除を推進しており、家庭レベルでの早期発見と適切な対応が重要である。
家の周りで見られる外来種 TOP5(種ごとの解説)
1. アライグマ(Procyon lotor)

特徴と見分け方:顔に黒い“マスク”状の模様、長いしま模様の尻尾が特徴。夜行性で屋根裏や倉庫に侵入することがある。
生態と被害:1970年代以降にペットや動物園由来の逸出・放逐で分布を拡大し、農業被害(果実や畑作物)、鳥類の巣の破壊、家屋被害、さらには人獣共通感染症リスク(サルモネラなど)を引き起こしている。地方自治体や環境省は防除マニュアルを公開し、地域での組織的対策を推奨している。
家庭でできる対策:屋根裏や小屋のすき間を封鎖する、可燃ゴミや生ゴミの管理を徹底する(匂いで誘引される)、夜間に餌を外に出さない。見つけたら素手で追い払わず、自治体の害獣相談窓口へ連絡する。
2. ミシシッピアカミミガメ(通称:ミドリガメ/アカミミガメ)

特徴と見分け方:甲羅の形や甲長、頭部の赤い斑(個体差あり)で識別。水辺(池や用水路)でよく見られる。
生態と被害:ペットとして輸入された個体が遺棄されて野外化したケースが多く、現在は北海道から沖縄まで広く定着している。繁殖と個体数増加により在来の淡水カメ類と餌資源・生息地を巡って競合し、水生植物や稲作圃場への食害も報告されている。ヒトへの感染リスク(サルモネラ)も指摘される。国立教育政策研究所+1
家庭でできる対策:ペット飼育の際は終生飼育の覚悟を持つ、飼育放棄や遺棄は厳禁。池や水盤を設置している場合は外来カメの侵入経路を遮断し、外来個体を発見したら自治体に相談する。
3. ウシガエル(Rana catesbeiana)

特徴と見分け方:大型で鳴き声が低く「ウォー」という牛のような声に似る。池や沼にいるオタマジャクシが非常に大きい。
生態と被害:食性は肉食寄りで、昆虫・甲殻類・他のカエル・小魚・小鳥まで捕食するため、水域の生態系に大きな影響を与える。日本列島ほぼ全域で確認され、在来カエルの減少や生態系の撹乱と関連が深い。
家庭でできる対策:池の管理(繁殖しやすい水草の過剰繁茂を抑える)、夜間の動植物観察を控え、幼生や卵塊を発見した場合には自治体の指示に従う。むやみに捕獲して他所へ移動させるのは禁物(拡散のリスク)。
4. セイタカアワダチソウ(Solidago canadensis:北米原産の多年草)

特徴と見分け方:秋に高さ1–2m近くまで伸び、黄色い花を密に咲かせる。空地や道路脇、河川敷に多い。
生態と被害:観賞用や蜜源として意図的に導入されたものが帰化し、在来草本と競合して生態系組成を変える。濃密に繁茂して日陰を作ることで先住植物の生育を阻害するなどの問題がある。環境省の外来種リストにも掲載されている。
家庭でできる対策:庭や近隣で見つけたら花期前に刈り取って種子散布を防ぐ。ゴミとして処理する際は種子が飛散しないようビニール袋に密閉する。植栽の際は園芸店で在来種や定着性の低い種を選ぶ。
5. ハクビシン(Paguma larvata)

特徴と見分け方:顔の中央に白い縦筋が入る。木登りが得意で屋根裏や納屋に侵入して糞尿被害や騒音の原因になる。
起源と現状:かつては「在来か外来か」の議論があったが、遺伝学的解析により日本の個体群は主に台湾起源で、人為導入(毛皮・ペット由来)が関係していることが示唆されている。都市近郊で目撃・被害報告が増えており、住宅被害や農作物被害、衛生面の問題が課題となっている。
家庭でできる対策:屋根裏・煙突・通気口の防護、ゴミ管理、果樹ネットの活用などで誘引を減らす。侵入が疑われる場合は専門業者か自治体に相談する。
番外編:マイナーだが要注意な外来種
ヒアリ(Solenopsis invicta)

港湾やコンテナヤードを中心に断続的に発見されている強毒の侵入アリ。刺されると激しい痛みや水疱を起こすため人の安全面でも注意が必要。日本では港湾での早期発見・根絶が基本方針となっており、発見時は自治体や環境省への通報が求められる。家庭周辺での発見例は限定的だが、輸送ルートや宅配の荷物からの移入を完全には否定できない。
外来種が身近に及ぼす影響(短く整理)
- 生態系:在来種の捕食・競合により地域の生物多様性が低下する。
- 農業・園芸:作物や園芸植物の食害・被害。
- 衛生・健康:噛傷・刺傷、サルモネラなど人獣共通感染症のリスク。
- 経済:防除費用や作物被害の経済的負担が生じる。
家庭でできる「早期発見」と「被害予防」チェックリスト

- 夜間に不審な鳴き声や物音がないか注意する(アライグマ、ハクビシン等)。
- 小さな水たまりや庭池の幼生(巨大なオタマジャクシ=ウシガエル)を観察する。
- 池やバードバスに見慣れないカメ(ミドリガメ)を見かけたら写真を撮って自治体に相談。
- 異常繁茂する見慣れない草は花期前に刈る(種子の拡散防止)。
- ペットは安易に放さない。終生飼育の責任を持つ。
- 発見した外来種は勝手に移動・放逐しない(拡散リスク)。専門窓口へ連絡。
通報・相談先の目安
- 環境省の外来種情報ページ:一般的な情報や注意喚起がまとまっている。
- 国立環境研究所(侵入生物データベース):種ごとの分布・生態情報が詳しい(ミドリガメ、ウシガエル等)。
- 市区町村の害獣対策窓口:捕獲や処理についての相談や連携が可能(地域ごとの防除計画に基づく対応が推奨される)。
まとめ(家庭での実践ポイント)
- まず観察して記録(写真・時間・場所)——専門家に伝える情報として重要。
- 安易に捕獲・移動しない——拡散や法規制違反の恐れがある。
- 飼育放棄をしない——ペット由来の外来化は根本原因の一つ。
- 地域で情報を共有する——自治体や近隣と連携することで早期対処が可能になる
参考資料
- 環境省 外来種対策ページ(外来種リスト・防除情報)。環境省
- 国立環境研究所(NIES) 侵入生物データベース:ミシシッピアカミミガメ、ウシガエル。国立教育政策研究所+1
- 環境省「アライグマ防除の手引き(改訂版)」。環境省
- ハクビシンの日本個体群に関する遺伝学的解析(学術論文)。PubMed
- 環境省 ヒアリ情報ページ(要緊急対処特定外来生物)。環境省