カレーにクミンやターメリックを加える。
ヨーグルトにシナモンを振る。
肉料理にブラックペッパーを使う。
香辛料は少量でも料理の香りや味を大きく変えてくれます。
では、香辛料には「栄養」もあるのでしょうか。
実際、香辛料にはポリフェノールをはじめ、香りや辛味を生み出すさまざまな植物由来成分が含まれています。また、種類によっては鉄などのミネラルも含まれています。
ただし、
「香辛料は天然のサプリメントだから、食べれば病気を予防できる」
と考えるのは正確ではありません。
料理に使う香辛料は通常ごく少量です。
さらに、試験管の中で確認された抗酸化作用や抗菌作用が、そのまま人間の体内で同じ効果を示すとは限りません。
この記事では、香辛料に含まれる成分と、現在どこまで人で健康への影響が確認されているのかを科学的に整理します。
結論|香辛料にはさまざまな成分があるが「薬」ではない
香辛料には、
ポリフェノールなどの植物由来成分、香り成分、辛味成分、ビタミン・ミネラルなどが含まれています。
例えば、
シナモンにはシンナムアルデヒド、
ターメリックにはクルクミノイド、
ブラックペッパーにはピペリン、
ショウガにはジンゲロール類、
唐辛子にはカプサイシン
など、それぞれ特徴的な成分があります。
これらの物質について、抗酸化作用・炎症反応・糖代謝・脂質代謝などとの関係が研究されています。
しかし重要なのは、
「成分が含まれている」ことと、「その食品を食べれば病気を防げる」ことは別
という点です。
特にサプリメントを使った研究結果を、そのまま料理に使う少量のスパイスへ当てはめることはできません。
香辛料にはどんな成分が含まれている?
「香辛料」と一言でいっても、植物のさまざまな部分が利用されています。
シナモンは樹皮、ブラックペッパーは果実、クミンは種子、ターメリックやショウガは地下茎などです。
当然、含まれる化学成分も大きく異なります。
そのため、
「香辛料には共通してこの成分が大量に含まれている」
とまとめるより、それぞれの植物が異なる成分を持っていると考える方が正確です。
① ポリフェノールなどの植物由来成分
香辛料にはさまざまなフェノール性化合物や植物由来成分が含まれています。
これらの中には、実験室レベルで抗酸化作用を示すものがあります。
「抗酸化」とは、酸化反応を抑える性質のことです。
私たちの体内でも活性酸素などが発生し、細胞には酸化ストレスがかかります。
ただし、
ポリフェノールを含む
↓
活性酸素を直接除去する
↓
老化や病気を防ぐ
という単純な流れで説明することはできません。
食品として摂取された成分は消化・吸収・代謝されるため、試験管の中で測定した「抗酸化力」と、人間の健康への影響は区別して考える必要があります。
香辛料の研究では興味深い結果が多くありますが、人を対象とした研究では結果にばらつきもあります。
② 香り・辛味を作る成分も重要
香辛料の特徴は、ビタミンやミネラルだけではありません。
むしろ、私たちが香辛料らしいと感じる理由は、少量でも強く感じられる香りや辛味の成分にあります。
例えば唐辛子のカプサイシンは辛味、ブラックペッパーのピペリンは刺激、シナモンのシンナムアルデヒドは独特の香りに関係します。
ターメリックの黄色にはクルクミノイドが関係しています。
こうした物質は味や香りを作るだけでなく、生理作用についても研究されてきました。
ただし、研究で用いられる量や抽出物の濃度は、普段の料理で摂取する量とは異なることがあります。
③ ビタミン・ミネラルも含まれるが「食べる量」に注意
香辛料の栄養成分表を見ると、
「クミンには鉄が多い」
「スパイスにはミネラルが豊富」
といった数字が目につくことがあります。
実際、USDAのFoodData Centralなどを見ると、乾燥香辛料にはさまざまな栄養素が含まれていることが分かります。
ただし、ここには大きな注意点があります。
栄養成分表は100gあたりで示されることが多い一方、家庭で一度に使う香辛料は数g以下の場合も珍しくありません。
つまり、
100gあたりでは栄養価が高く見えても、実際に料理から摂取する量は小さい
ことがあります。
そのため、鉄不足だからクミンだけで補う、といった使い方より、
料理をおいしくする食品の一つとして利用する
と考える方が現実的です。
香辛料には「抗菌作用」がある?
ニンニク、クローブ、シナモンなどに含まれる成分について、細菌や真菌などへの作用を調べた実験は数多くあります。
しかし、
実験室で微生物の増殖を抑えた=その香辛料を食べれば感染症を予防できる
という意味ではありません。
例えばニンニクは昔から健康目的でも利用されてきましたが、NCCIHによると、ニンニクのサプリメントが免疫機能を高めるという主張についても、人での研究は非常に限られています。
香辛料を、
風邪や感染症を防ぐ薬の代わり
として扱うのは避けた方がよいでしょう。
ショウガは胃腸に良い?
ショウガは消化や吐き気との関係でよく取り上げられる香辛料です。
人を対象とした研究も比較的多く、NCCIHによると、ショウガのサプリメントは妊娠に伴う吐き気や嘔吐を軽減する可能性があります。
一方で、乗り物酔いについては多くの研究で明確な効果が確認されていません。
また、研究の多くは料理に使うショウガではなく、サプリメントを対象としています。
したがって、
「香辛料はすべて消化液を増やして胃腸を活発にする」
とまとめるのではなく、香辛料ごとに研究結果を見る必要があります。
シナモンを食べると血糖値が下がる?
シナモンは「血糖値を下げるスパイス」として紹介されることがあります。
しかし、現時点ではかなり慎重に扱う必要があります。
NCCIHは、シナモンについて多くの研究が行われているものの、糖尿病など特定の健康状態に有効だと明確に結論づけられる状態ではないとしています。
研究ごとに、
シナモンの種類、摂取量、期間、対象者、製品
などが異なることも結果を比較しにくくする原因です。
したがって、
シナモンを毎日食べれば糖尿病を予防できる
とはいえません。
血糖管理が必要な場合には、食事全体や運動、必要な治療を優先して考える必要があります。
ターメリックのクルクミンは健康に良い?
ターメリックの代表的な成分として知られているのがクルクミンです。
クルクミンについては非常に多くの研究があり、炎症や脂質代謝などさまざまな分野で調べられています。
しかしNCCIHは、現在の研究からターメリックやクルクミンが健康目的で明確に有効だと断定するには十分ではないとしています。
また、
料理に使うターメリック
と、
クルクミンを濃縮したサプリメント
は同じではありません。
特に吸収率を高めた一部のクルクミンサプリメントでは、肝障害も報告されています。
食品として楽しむ場合と、高濃度の成分をサプリメントとして摂取する場合は分けて考える必要があります。
香辛料をたくさん使えば生活習慣病を防げる?
香辛料と心血管・代謝系の健康との関係は、現在も研究されています。
2021年のランダム化クロスオーバー試験では、心血管疾患リスクが高い成人に対して、1日あたり0.5g、3.3g、6.6g相当の混合ハーブ・スパイスを含む食事をそれぞれ4週間摂取してもらいました。
その結果、比較的多くの香辛料を含む条件では24時間血圧の一部に小さな改善がみられました。
しかし、LDLコレステロール、血糖関連指標、血管機能など、すべての項目が改善したわけではありません。
複数の臨床研究をまとめたレビューでも、一部の香辛料で有望な結果がある一方、研究方法や摂取量の違いが大きく、結果にはかなりばらつきがあります。
したがって、
「香辛料を食べれば生活習慣病を予防できる」
というより、
健康的な食生活を構成する食品の一つとして研究されている
と理解するのが適切です。
香辛料の実用的なメリットは「料理を変えられること」
香辛料の大きな魅力は、病気への作用だけではありません。
少量でも料理の香りや風味を大きく変えられることです。
塩や砂糖を大量に追加しなくても、
クミン、コリアンダー、ブラックペッパー、唐辛子、ショウガ、シナモン
などを組み合わせることで、料理に複雑な風味を付けられます。
人を対象とした香辛料研究のレビューでも、ハーブやスパイスは料理の風味を増し、塩の代替として利用する方法が注目されています。
「健康成分を摂らなければ」と考えるより、
おいしく食べるために香辛料を使い、その結果として食事の幅を広げる
という使い方の方が続けやすいでしょう。
香辛料は1日何g食べればいい?
香辛料全般について、
「健康のためには1日○gが理想」
という共通の基準はありません。
種類によって成分も刺激の強さも違います。
したがって、元の記事にあった「1日数グラム程度を目安にする」という一律の表現は削除します。
普段の料理では、風味を楽しめる範囲で使えば十分です。
胃腸への刺激を感じる場合には量を減らしましょう。
また、料理に使う量を大きく超えてサプリメントや濃縮エキスとして摂取する場合は、食品として食べる場合と安全性が同じとは限りません。
サプリメントは「香辛料を濃くしただけ」ではない
ここは特に重要です。
普段料理に使うシナモンやターメリックと、高濃度の抽出物を含むサプリメントでは摂取量が大きく異なる場合があります。
例えばカシアシナモンにはクマリンが含まれ、長期間多量に摂取する場合には肝臓への影響が問題になる可能性があります。
高吸収型のクルクミン製品では肝障害の報告があります。
また、ニンニクのサプリメントには出血リスクを高める可能性があり、抗凝固薬などを使用している場合は注意が必要です。
そのため、
料理として食べる香辛料と、健康目的で大量に摂取するサプリメントは分けて考える
ことが重要です。
香辛料を日常に取り入れるなら
難しく考える必要はありません。
カレーにクミンやコリアンダーを加えたり、肉や魚にブラックペッパーを使ったり、スープにショウガを加えたりするだけでも、料理の香りは大きく変わります。
毎日同じ香辛料を大量に摂取するより、
さまざまな香辛料を料理に合わせて少量ずつ楽しむ
方が取り入れやすいでしょう。
香辛料を使い始めたい人向けには、今後「初心者向けスパイスの選び方・基本セット」の記事でも具体的な商品を比較します。
まとめ|香辛料の魅力は「薬効」だけではない
香辛料には、ポリフェノールをはじめとした植物由来成分、香り・辛味を作る物質、ビタミンやミネラルなど、さまざまな成分が含まれています。
一部の成分については、抗酸化作用、糖代謝、脂質代謝、血圧などとの関係が研究されています。
しかし、
「成分がある」=「食べれば病気を予防できる」
ではありません。
特に、
「免疫力が上がる」
「感染症を防ぐ」
「糖尿病を予防する」
「天然の薬として使える」
といった説明は、現在の科学的根拠より強い表現になりやすいので注意が必要です。
香辛料の一番分かりやすい魅力は、
少量で料理の香り・辛味・味わいを大きく変えられること。
そのうえで、植物が作るさまざまな化学成分について研究が進んでいる。
このくらいの距離感で捉えると、香辛料を科学的にも食文化としても楽しめるでしょう。
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参考文献・参考資料
Gupta, K. et al. (2022). The effect of herbs and spices on risk factors for cardiometabolic diseases: a review of human clinical trials. Nutrition Reviews, 80(3), 400–427. DOI: 10.1093/nutrit/nuab034.
Petersen, K. S. et al. (2021). Herbs and spices at a relatively high culinary dosage improves 24-hour ambulatory blood pressure in adults at risk of cardiometabolic diseases: a randomized, crossover, controlled-feeding study. The American Journal of Clinical Nutrition, 114(6), 1936–1948. DOI: 10.1093/ajcn/nqab291.
National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Cinnamon: Usefulness and Safety.
National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Turmeric: Usefulness and Safety.
National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Ginger: Usefulness and Safety.
National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH). Garlic: Usefulness and Safety.
U.S. Department of Agriculture, Agricultural Research Service. FoodData Central.



